化学合成が難しい医薬品などを「スマートセル」で創出
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は5月31日、神戸大学と共に、合成難易度の高い配列を含む2本鎖DNAを合成することができる新規DNA合成技術を開発し、その成果を神戸大学発ベンチャーである株式会社シンプロジェンに実施許諾する契約を結んだと発表した。これを機に、同社は本技術の事業化に取り組む。
画像はリリースより
NEDOは、植物や微生物の細胞が持つ物質生産能力を人工的に最大限引き出した「スマートセル」を構築し、既存の化学技術では生産が難しい有用物質の創製、または従来の生産手法の飛躍的な改善を実現することを目的に、スマートセル構築のための設計・製造基盤技術および特定の物質の生産における実用化技術の研究開発プロジェクトを推進している。同プロジェクトで開発している基盤技術を中心に先端的なバイオテクノロジーと計算科学を組み合せることで、設計(Design)、構築(Build)、試験(Test)、学習(Learn)のワークフロー(DBTL)を展開し、医薬品を含むファインケミカルやバイオベース化学品、バイオ燃料などのさまざまな有用物質生産にバイオプロセスを取り入れ、ものづくりの加速を目指している。
長鎖DNAやGCリッチDNAは化学合成が困難
有用物質を生産するためには微生物の細胞内に新規の代謝経路を構築するが、その際には多数の遺伝子を導入する必要があり、そのためには、任意の配列の長鎖DNA(1万塩基より大きい)を構築する技術が必要。任意配列のDNA合成のためには、化学的に合成したDNA(化学合成DNA)を出発材料とする必要があるが、最大でも一度に200塩基程度の1本鎖DNAしか合成できない。
長鎖DNAの合成のためには複数の1本鎖の化学合成DNAを貼り合わせた後に、一旦1,000塩基対程度の大きさの中間段階2本鎖DNAを合成し、さらにこれを多数準備し、遺伝子集積法により連結して構築する必要がある。DNAの化学合成方法についての基本的な技術は確立しており、また、遺伝子集積法については、シンプロジェンが特許権を保有しているOGAB法などいくつかの集積技術が既に開発されている。
しかしながら、中間段階の2本鎖DNAを構築する工程は、配列の種類によって合成の難易度が大きく異なり、従来の技術では高いGC含量や繰り返し配列を含む配列の場合には合成が困難であるため、やむを得ずその配列を合成可能な別の配列に変換して合成する必要があった。その結果、長鎖DNAの合成に2か月以上の時間がかかり、このことがDBTLサイクルを遅くするという問題点があった。
2か月かかっていた長鎖DNAの合成期間を10日に短縮
今回のプロジェクトで開発された新規の2本鎖DNA合成技術は、化学合成DNAをオーバーラップエクステンションPCR法により連結して目的の2本鎖DNA断片を取得する2本鎖DNA合成方法において、PCRサイクルのアニーリング温度の設定を多段階とすることで、目的とする2本鎖DNA断片を正確に、容易に、効率よく、さらに迅速に合成できる方法で、現在特許出願中。
同技術を用いると、従来は困難だったGC含量が70%を超える配列や、繰り返し配列などを含む場合であっても、正確に効率よく中間段階2本鎖DNAを合成できるようになり、この結果化学合成DNAから長鎖DNAの合成に要していた時間を、従来の2か月以上から、10日程度に短縮することが可能になったという。
同技術によってDBTLサイクルをより早く進行できるようなり、スマートセルの作出や性能向上のスピードアップが期待される。NEDOと神戸大学は今回の研究成果を先行事例として、生物機能を活用して高機能な化学品や医薬品などを生産する次世代産業「スマートセルインダストリー」の実現を目指す。なお、シンプロジェンは長鎖DNAの受託合成サービスを、来春を目標に開始する予定。