カマンベールチーズやβラクトリンには認知機能改善効果
東京大学は5月22日、乳タンパク質を特定の微生物由来酵素で分解して生じたトリプトファン-チロシン(WY)ジペプチドで脳から分離したミクログリアを処理すると、アミロイドβを貪食除去する機能が亢進し、神経傷害につながる炎症性サイトカインの過剰な産生も抑制されることを見出したと発表した。この研究は、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医病理学研究室の中山裕之教授らが、学習院大学大学院自然科学研究科生命科学専攻高島研究室、キリンホールディングス株式会社と共同で行ったもの。研究成果は、「Aging (Albany NY)」に掲載されている。
画像はリリースより
アルツハイマー病に代表される認知症に対する本質的な治療法・予防法は、まだ開発されていない。研究グループはこれまでに、アルツハイマー病モデルマウスを用いたカマンベールチーズの認知機能改善効果や、スコポラミン健忘症モデルマウスを用いた乳清由来ペプチド(GTWYペプチド=βラクトリン)の認知機能改善効果を報告してきた。しかし、発酵乳に含まれる特定のペプチド成分を発症前から投与しアルツハイマー病を予防する効果についてはこれまで詳細に検討されていなかった。
WYジペプチドが脳内のアミロイドβ沈着と炎症を抑制
研究グループは今回、乳タンパク質(カゼイン)を特定の微生物由来酵素で分解して得られたトリプトファン-チロシン(WY)ジペプチドで、脳から分離し培養したミクログリアを処理すると、アミロイドβ貪食機能が亢進し、TNF-α等の炎症性サイトカイン産生が抑制されることを見出した。また、WYジペプチドを摂食させたマウスでは、Lipopolysaccharide(LPS)の脳内投与で惹起される炎症が抑制され、記憶の低下も改善された。さらに、WYジペプチドを19週間摂食させた68週齢の老齢マウスでも脳の炎症状態進行が抑制され、アミロイドβの量も減少。加えて、加齢に伴い生じる海馬シナプス活動(長期増強)の低下も改善された。次いで、アルツハイマー病モデルマウス(5×FAD)を用いて、WYジペプチド投与の病態予防効果を検証したところ、WYジペプチド投与群では、対照群と比較して、アミロイドβの脳内沈着と脳内炎症が抑制され、空間認知機能やエピソード記憶等の認知機能の低下も改善されたという。
研究グループはこれまで認知機能改善ペプチドとしてβラクトリンを報告したが、今回はそのコア配列であるWYジペプチドによるアルツハイマー病予防効果を見出した。「WYジペプチドは乳製品の中でも特定のホエイや、カマンベールチーズなどカビで熟成させたチーズに多く含まれていることから、WYジペプチドやβラクトリンを含む食材を用いた、日常的に摂取しやすい認知症予防食品の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 プレスリリース