未解明だった「無意識レベルの食物への感情処理」をする神経メカニズム
京都大学は5月22日、食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大こころの未来研究センターの佐藤弥特定准教授らのグループによるもの。研究成果は、海外科学誌「Scientific Reports」にオンライン掲載された。
画像はリリースより
食物への感情処理(例えば食物を見て「おいしそう」と感じること)は、ヒトの生活において重要な役割を果たしている。
心理学研究では、食物への感情処理が無意識のレベルでも起こることが示されていたが、無意識レベルの食物への感情処理を実現する神経メカニズムについては、解明されていなかった。
無意識の感情処理、扁桃体の活動によって実現される可能性
研究グループは、日本人22人を対象に、無意識的に(見えないようにサブリミナルで)あるいは意識的に(見えるように)呈示された食物画像と、モザイク画像(食物画像から作られたベースライン刺激)に対する脳活動を、fMRIで計測。その結果、無意識的と意識的、どちらにも共通して、両側の扁桃体が食物画像に対してモザイク画像より強く活動することが示された。
扁桃体は、脳内の感情中枢とされる部位。意識的な条件のみで、新皮質の広い領域が食物画像に対して活動した。扁桃体がどのような視覚経路で活動するか調べてみると、無意識的な条件では、皮質下の視覚経路のみで活動し、意識的な食物処理では、皮質下と新皮質の両方の視覚経路によって活動していた。
この結果は、食物の無意識の感情処理が、皮質下経路での素早い視覚入力で起こる扁桃体の活動によって実現される可能性を示唆しており、食物に無意識で感情を感じる脳内メカニズムを解明する世界初の知見となる。
また、食物が無意識のうちに感情をかきたてることが明らかになったことで「ダイエットする人は環境中の食物刺激に気をつけたほうがよい」などの、日常生活への示唆、さらに、扁桃体という脳部位の関与が示されたことで、摂食行動を統制するための医学的示唆(扁桃体の活動を亢進させる睡眠不足やストレスを避けることが効果的な可能性があるなど)も得られたと言える。研究グループは「今後の発展として、脳活動のデータに基づいて強く感情を喚起する食品を開発するといった産業応用も期待される」と、述べている。
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・京都大学 研究成果