行動中の複数動物から同時計測するためにワイヤレスで開発
大阪大学は5月15日、生物発光で複数マウスの脳活動を同時にライブ観察できる計測法を開発したと発表した。この研究は、同大産業科学研究所の永井健治教授、稲垣成矩日本学術振興会特別研究員(当時)、揚妻正和科学技術振興機構さきがけ研究員(当時)、東北大学の大原慎也助教、飯島敏夫名誉教授、理化学研究所光量子工学研究センターの横田秀夫チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの脳では、神経細胞が回路を形成し、電気的な信号の伝搬を通じて認知・行動・記憶といった高次脳機能を実現する。それら脳機能を詳細に理解するために、従来は電極を用いた脳活動計測が行われてきた。しかしこの手法では、特に自由行動中の動物における脳活動を計測する際に、それぞれのマウスにケーブルを接続する必要がある。したがって、例えば社会性行動を行っている複数のマウスから同時計測を行おうとすると、ケーブルが絡まってしまうことなどが問題となり、研究が困難だった。
研究グループはこれまで、ホタルの光に代表される生物発光タンパク質を用いたイメージング(生物発光イメージング)に着目し、研究を進めてきた。生物発光イメージングは、動物個体からの発光シグナルをワイヤレスに検出することが可能。近年、遺伝子組み換え技術により生物発光タンパク質を改変することで、生体内の現象を可視化することができるさまざまなタンパク質センサーの開発が進められている。
同手法で新たな脳機能発見、精神疾患研究・治療への貢献に期待
今回研究グループは、世界に先駆けて開発した「生物発光膜電位センサーLOTUS-V」を用いて、自由行動中の動物の脳活動をワイヤレスに検出可能な新規脳活動計測法を開発した。この計測法では、まずアデノ随伴ウイルスを介してLOTUS-Vを脳内の観察したい領域の神経細胞にのみ導入しておく。次いで発光基質を含む液を脳内に浸透させることによって、LOTUS-Vは平均で3時間(最長7時間)光を発するようになり、観察領域の電気的活動の変化に伴って、その発光色も変化する。原理的には、夜にホタルの光を撮影することと同じであり、動物の行動に伴う発光色の変化を、暗箱内の離れた場所に設置した通常の研究用CCDカメラにより計測することで、従来の計測手法よりも簡便に自由活動中のマウスから脳活動計測が行えるという。ワイヤレスな観察であるため、ケーブルにより動物行動が制限されることも起こらず、複数動物同時の観察も可能。さらに、同手法を用いた観察では、発光「色」の変化を測定するため、発光の「強度」を測定する従来法と比べて、動くサンプルからの正確な計測にも非常に有利であることが実際の観察データから証明できた。
以前にも発光によるマウスからのシグナルの検出に関する報告はあるが、ここまで正確かつミリ秒単位でダイナミックに変化する脳活動の検出に成功したのは今回が世界初。実際に、研究グループはこの計測手法を用いることにより、マウスが互いに接触する際に一次視覚野と呼ばれる脳部位の神経活動が優位に上昇することを、世界で初めて発見した。この結果は、今回開発された計測法が、今後も未知の脳機能を発見する手段として有用であることを示している。「これまで研究が困難であった、複数動物間のコミュニケーションなどの社会性行動を司る脳機能の解明、そして自閉症スペクトラム・対人恐怖症・注意欠陥多動性障害などといった関連する精神疾患の研究・治療などへの貢献が期待される」と、研究グループは述べている。
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