遠隔転移を有する大腸がん患者の5年生存率は20%程度
新潟大学は5月10日、胎児の発生に必須の遺伝子である Crumbs3 (Crb3、クラムス3)が、大腸がんの転移を引き起こすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子細胞病理学分野の近藤英作教授、飯岡英和助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Cancer」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
日本人の死因の第1位であるがんの中でも、大腸がんは罹患者数・死亡数で上位を占める。他の部位のがんと同様、浸潤・転移の有無が治療法の選択や患者の予後に大きな影響を与える。特に、遠隔転移を有する大腸がん患者の5年生存率は20%程度であり(遠隔転移が認められない場合は80%以上)、浸潤・転移が治療を困難にし、予後を悪化させる大きな要因となっている。しかし、浸潤・転移の激しい難治がん、進行がんに対する手立てはまだ不十分であり、新たな対処法の開発が求められている。
胎児の発達期に働くCrb3が、大腸がんの浸潤・転移に深く関わることを証明
Crb3は、発生生物学的研究から正常な上皮組織の形態や機能の構築に必須の遺伝子として同定され、実験動物や培養細胞を用いた実験によって、がんの形成に対し抑制的に働くことが報告されていた。今回の研究では、ヒトの大腸がんサンプルを用いて解析することにより、実際のヒトの大腸がんにおけるCrb3の機能を解析した。
研究グループは、Crb3特異的抗体を作成し、ヒト大腸がん組織切片や大腸がん培養細胞を用いた分子病理学的解析より、Crb3が多くのがん組織に発現することを明らかにした。特に大腸がんでは、Crb3の発現が強い傾向が認められため、大腸がん培養細胞からCrb3-ノックアウト細胞を作成し、機能解析を実施。その結果、Crb3が線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)と結合し、活性化することで大腸がん細胞の移動性を高め、転移を促進することが判明したという。
研究グループは、「Crb3が転移を促進することはこれまでに知られておらず、詳細なメカニズムの解析を進めることで、転移をターゲットとした新たな診断法や治療法の開発に繋がる可能性がある」と、述べている。
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・新潟大学 プレスリリース