切望されていた「高解像度・低侵襲」の筋細胞検査
慶應義塾大学は4月26日、MRIを用いて骨格筋細胞のマイクロ構造を可視化する技術の開発に成功したと発表した。この研究は、同大医学部整形外科学教室の中村雅也教授、生理学教室の岡野栄之教授、畑純一訪問研究員らの合同研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
骨格筋の筋線維は、その形や機能からいくつかの種類に分類され、主に遅筋線維(slow twitch: SW, type1線維)と呼ばれる持久性の高い筋肉と、速筋線維(fast twitch: FT, type2線維)と呼ばれる瞬発力の高い筋肉に大別される。遅筋と速筋は、収縮特性、エネルギー系、疲労耐性などの特性が大きく異なっており、生体における骨格筋は、これらが混在し組織されている。筋線維構成は各筋群において異なり、type1が多いもの、またその逆と、さまざまである。さらに、筋線維の構成や太さは筋疾患やトレーニングで変化するため、筋線維の構成や太さを理解することは、臨床医学やスポーツ医科学など、多岐にわたる分野で重要と考えられている。
現在、骨格筋内の細胞構成比は、筋生検という筋肉の一部を切り取って行う検査で測定するのが主流だ。しかし、筋生検は身体への侵襲性に加え、手技の煩雑さが伴う。また、現在の画像医学では、CTやMRIを用いた筋繊維の可視化手法があるが、筋細胞の種類を識別できる解像度のものはなく、筋生検を用いた組織学と同等の情報を得ることは困難とされている。このため、高解像度かつ侵襲性の低い筋細胞検査技術の開発が望まれてきた。
q空間イメージング法で、骨格筋細胞の微細な差を感知
今回、研究グループは、q空間イメージング法を基盤として、骨格筋細胞の種類による微細な差を感知できる新しいMRI撮像法を開発。同手法を用いることで、水分子の微細構造における変位量を解析することが可能となり、生体組織のマイクロサイズの構造情報を取得することができた。
マウス下腿部骨格筋断面の染色像と比較したところ、筋種類分布および筋細胞径で有意な相関が得られ、同手法は非侵襲でありながら組織学と同等の精度を持つ、新規性に富んだ筋線維タイプの識別法であることが確認された。今後、ヒト臨床試験を経て同手法が確立されることにより、運動器の機能、疲労、トレーニングの定量評価が可能となることが期待される。
研究グループは、「骨格筋疾患の画像診断やそのメカニズム解明において新しい基準をもたらす可能性や、簡易な検査で筋種類分布や筋細胞径に基づくスポーツ適正判定が行える可能性、疲労度合い判定によるリハビリやトレーニングのスケジュール管理、高齢者サルコペニアなどのADL低下の原因解明など、同技術は医学、医療、スポーツ、健康へ大きく貢献することが期待される」と、述べている。
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