HIV-2 VpxのSAMHD1に対する働きを制御する因子を探索
横浜市立大学は4月24日、エイズの原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)が宿主細胞内の防御システムから逃れる分子メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学術院医学群微生物学の梁明秀教授、宮川敬講師らと、国立感染症研究所、徳島大学、京都大学、愛媛大学などとの共同研究によるもの。研究成果は、「Nature communications」に掲載された。
画像はリリースより
全世界で3670万人以上がHIVに感染していると推測されている。一度感染したHIVを体内から完全に排除する治療法は確立されておらず、HIV感染者は抗ウイルス薬を日常的に飲み続ける必要がある。また、ウイルス遺伝子に変異が入ることで既存の薬が効かなくなる薬剤耐性ウイルスの出現事例も多数報告されている。これらのことから、感染自体を防ぐHIVワクチンの開発と並行して、既存薬が効かない耐性ウイルスにも効果のある新しい薬剤を常に作り続ける必要がある。
ヒト細胞が作り出す酵素の一種であるSAMHD1タンパク質は、マクロファージやCD4陽性T細胞へのHIV感染を強く阻止する。一方、ウイルス側、特に西アフリカに感染者の多いHIV-2は、ウイルス粒子内にVpxタンパク質をもっており、その働きにより細胞内でSAMHD1を分解する。これにより、HIV-2は骨髄系細胞やT細胞に感染することができる。研究グループは、新しい抗HIV薬の開発を目指す過程で、このVpxタンパク質の機能を抑制することに着目。まず、VpxのSAMHD1に対する働きを制御する因子の探索を行った。
PIMキナーゼ阻害剤でSAMHD1分解阻止、HIV-2の増殖を抑制
これまでの報告から、Vpxは細胞内でリン酸化修飾を受けることが知られていたため、リン酸化修飾に関わる400種類以上の宿主タンパク質群のうち、Vpxと相互作用するものを探索したところ、PIMキナーゼと呼ばれる宿主タンパク質がVpxとよく結合し、特異的にリン酸化すると判明。さらに質量分析計を用いて詳しく調べたところ、Vpxの13番目のアミノ酸であるセリンがPIMキナーゼによりリン酸化されることが明らかになった。このセリンを別のアミノ酸に置換すると、Vpxのリン酸化が起きなくなり、ウイルスの増殖が顕著に減少した。また、分子動力学を用いた構造シミュレーションの結果、このセリンのリン酸化はSAMHD1との相互作用を強めることが予測され、生化学実験でそれが実証された。
次に、siRNAを用いてPIMキナーゼの発現を抑制した細胞にHIV-2を感染させたところ、ウイルスの感染は低く抑えられた。この細胞ではVpxが存在するにも関わらず、細胞内のSAMHD1がほとんど分解されておらず、SAMHD1による抗ウイルス活性が持続していたと考えられる。さらに、抗がん剤であるPIM阻害薬AZD1208を、HIV-2を感染させたマクロファージに添加すると、長期間にわたりウイルスの増殖が抑制された。これらの結果から、AZD1208に、HIVタンパク質Vpxの機能阻害という作用もあることが明らかとなり、ドラッグリポジショニングによる新規抗ウイルス剤の可能性が示された。今後、研究を進め、ウイルス-宿主間相互作用を標的とした新しいタイプの治療薬開発へ展開させたいと、研究グループは述べている。
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