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大脳の領域同士のつながりを模倣した人工大脳組織をヒトiPS細胞から作製-生研

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2019年04月23日 PM01:30

離れた2つの大脳の領域を軸索の束でつないだ構造の模倣に成功

東京大学生産技術研究所は4月19日、ヒトiPS細胞から2つの大脳神経組織を作製し、それらを軸索が束状に集まった組織で繋ぐことに成功したと発表した。この研究は、同研究所の池内与志穂准教授らによるもの。研究成果は、「iScience」オンライン版にて公開されている。


画像はリリースより

大脳皮質は、運動制御、言語処理、視覚情報処理などといった機能ごとに、異なる領域に分かれている。このような距離的に離れた領域間は、大脳の白質と呼ばれる部分で軸索が束状になった組織によってつながっており、それぞれの領域で処理された情報はこの束状組織を介して統合されている。しかし、この束状の軸索組織の配線は非常に複雑で、脳内の回路が作られるしくみや脳が働くしくみを解析するために、単純化したモデル実験系が求められていた。

2つの組織から伸びた軸索が相互作用し、軸索束の形成を促進

研究グループは今回、2つの人工大脳組織をつなげた組織を作製。まず、約1万個のヒトiPS細胞からなる球状の組織を大脳神経に分化させ、マイクロデバイスの両側に1つずつ配置して培養した。この組織は、大脳神経のみにあるタンパク質をもっていることや、発生中の脳組織のような特徴的な構造をとることから、この組織が生体内の大脳神経と似た組織であることが確認された。デバイス内で培養すると、それぞれから多数の軸索が伸び、デバイスに移してから25日後には、細い通路内の軸索束状組織によって、2つの人工大脳組織がつながった組織を作製することに成功した。

2つの人工大脳組織をつないだ部分の組織を免疫染色法によって解析したところ、軸索にのみ含まれるタンパク質が観測され、一方で細胞体や樹状突起は観測されなかった。また、電子顕微鏡観察の結果、この部分の組織内では軸索が規則正しく集まって集合していることが判明。このことから、2つの人工大脳組織は互いに無数の軸索を伸ばし合って軸索の束状組織を作り、自発的につながったことがわかった。

また、2つのチャンバーの片方のみに球状組織を入れた場合、軸索の束状組織の形成効率が、両側から軸索が伸びてきた場合に比べて低く、軸索が自発的に集まりにくいことがわかった。片側に球状組織を入れ、もう片側にガラスビーズを入れた場合にも同様に、束状が集まって組織を形成する効率は低いままだった。一方、マイクロデバイスを用いずに軸索が自由にどの方向にでも伸びられるような状況にした場合には、全く軸索束組織は形成されなかった。これらの結果は、2つの組織から伸びた軸索が相互作用し、軸索束の形成を促進していることを示唆している。

治療薬探索のプラットフォームの使用にも期待

カルシウムイメージング法を用いた電気生理学的な解析の結果、1つの球状組織を電気的に刺激した時にもう1つの球状組織で信号が検出されたことから、2つの球状組織間で情報のやりとりが行われていることが示された。組織の応答を詳細に調べたところ、直接刺激を受けた組織に比べ、軸索でつながったもう1つの組織が数十ミリ秒遅れて反応することが判明。これにより、今回作製した組織が大脳の離れた領域間で情報を伝達する様子を模倣することがわかった。

次に、生体内で軸索束の形成に不可欠であることが知られている、L1CAMと呼ばれる遺伝子に注目して解析を行いました。L1CAM遺伝子に突然変異が起こると、脳内の最大の軸索束であり、左右の大脳をつなぐ脳梁を欠損するなどの症状を引き起こすことが知られている。この遺伝子の機能を欠損させたところ、欠損させた細胞の軸索束の形成効率が大きく低下することがわかった。このことから、今回作製した人工大脳組織は、生体内の脳組織と同様のしくみで軸索束が形成されており、正常な脳ができる過程でだけでなく、遺伝子の異常が原因で起こる関連疾患のモデルとしても使えることが明らかになったという。

研究グループは今回の結果を受け、「今回作製した人工大脳組織が生体内の現象を単純化したモデル実験系として有用であることが示されたため、脳内の神経回路の配線がどのように構築され、どのように機能しているかを調べるための研究に活用されることが期待される。中枢神経系のさまざまな疾患を模倣したモデル実験系に発展させ、治療薬探索のプラットフォームとして使用することも期待される」と、述べている。

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