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ここまで来た日本の「がんゲノム医療」-保険償還にカウントダウン

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2019年04月18日 PM05:45

進行固形がんの治療戦略は「遺伝子診断」を加味する時代に

中外製薬株式会社は4月16日、「第1回がんゲノム医療に関する基礎メディアセミナー」と題したプレスセミナーを開催した。同社は2018年12月に、厚生労働省から、遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne(R) CDx がんゲノムプロファイル」の製造販売承認を取得。現在、発売に向け、準備が進められている。こうした背景のもとで同セミナーは、「がんゲノム医療の基礎知識から臨床まで」をわかりやすく紹介することを目的に開催された。初回となる今回は、国立がん研究センター先端医療開発トランスレーショナルインフォマティクス分野の土原一哉(つちはらかつや)分野長を講師とし、「がん治療の流れを変える『がんゲノム医療』の基礎知識から今後の新たな展開まで」と題した講演が行われた。


 土原一哉先生

これまでの多くの医学研究の積み重ねにより、「がんが遺伝子異常により生じる」ことがわかり、また、がん化を引き起こす多種多様な遺伝子異常が判明してきた今、手術で根治できない進行固形がんの治療戦略は、臓器別・組織別に加え、遺伝子診断を加味する時代となった。進行固形がんの薬物療法では、がん細胞と正常細胞との、「生物学的特性の違い」の原因となる分子を制御する「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害薬」が主流になりつつある。これらの治療薬を選択する際の根拠となるのが、血液や組織などに含まれ、がんの進行度や治療に対する反応に相関し、指標となる生体内物質、「バイオマーカー」だ。

種々のがんについての遺伝子解析により、がんの発生や進展に関連する遺伝子異常(ドライバー変異)は、「発生臓器に関わらず、臓器横断的に認められる」ということがわかった。この結果からも、進行固形がんの治療は臓器や組織を超え、遺伝子診断で個々人のゲノムに最適な薬を選択できる時代に変わりつつあり、今まで積極的な治療を諦めざるを得なかった患者も、新たな治療選択肢が与えられる可能性が出てきた。

均てん化されたがんゲノム医療実施体制に向けて

がん遺伝子プロファイル検査が実現に至った背景には、次世代シーケンサーの登場がある。これにより、ゲノム解析技術が高速化・一般化し、がん遺伝子パネル検査の薬事承認への動きが始まった。日本は米国に比べだいぶ遅れているというイメージがあるが、実際に、コンパニオン診断システムに続く遺伝子プロファイル検査システムの薬事承認のタイミングを追うと、日本(2018年)は米国(2017年)に1年ほどしか遅れていないことがわかる。

現状で、コンパニオン診断は、保険医療機関であれば全国どこでも実施でき、診断結果に対応する承認薬の使用を直接決定するもの。これに対し、遺伝子プロファイル検査は、専門家会議が開催可能な施設での実施に限定され、臨床的意義を専門家が総合的に判断し、医学的に効果が期待できる未承認薬の臨床試験への参加を推奨するもの。遺伝子異常の臨床的意義づけは、多数の専門家が、日々更新される情報を参照し、議論して行う。このステップが、どうしても「人依存」であることが、ゲノム医療のボトルネックとなっており、日米共通の課題となっている。

日本には、2019年4月現在、前述の専門家会議が開催可能な「がんゲノム医療中核拠点病院」が11か所、中核拠点病院と連携してゲノム検査結果を踏まえた医療を実施する「がんゲノム医療連携病院」が156か所ある。また、日本臨床腫瘍学会、日本癌治療学会、日本癌学会の、3大がん学会が合同で、「次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス」を発行しており、2019年度には、より現場で使いやすい内容に改訂予定となっている。このように、均てん化されたがんゲノム医療実施体制に向けての素地は整いつつあり、日本のがんゲノム医療体制整備は、決して米国より遅れているわけではない。

患者に多くのメリットをもたらす「がんゲノム医療」

米国のNCI-MATCH、韓国のK-MASTER、そして日本のSCRUM-Japanなど、現在、世界各国で大規模がんゲノムスクリーニングに基づく治験推進基盤プロジェクトが進行している。国立がん研究センターが運営しているSCRUM-Japanは、2015年の開始以来、約1万例の肺がんおよび消化器がんの症例登録がなされ、すでに10の治験が終了、4剤が薬事承認を取得している。一方で、ゲノム検査をした中で、治験対象の薬が見つかるのは、全体の約4割だという。ゲノムに限らないオミックス解析などの研究の進展による、エビデンスの集積が強く望まれる。

さらに、スクリーニングで治療標的が見つかっても、実際に治験に参加できる患者は限られている。例えば、SCRUM-Japanの治験登録率は3~5%(国立がんセンター東病院のみでは21%)と、決して高くはない。対象者が進行がんに限られていることが、大きな要因の1つとなっている。改善のためには、治験登録に際する検査にかかる時間の短縮や、リキッドバイオプシーの承認などによる検査の改善等が課題となる。

土原先生は、「がんゲノムプロファイリング検査は、効く薬が見つかるだけではなく、副作用が強く出てしまう薬や、なぜその薬では効かないのか、なども見えてくるところが特徴。また、プロファイリング検査により効果の高い、薬の組み合わせもわかるようになる可能性がある。一連のがんゲノム医療の普及により、治療の選択の幅が広がるばかりでなく、薬の効果が得られる可能性や安全性の向上など、患者にとって、これまでより多くのメリットが得られるようになる。それはおそらく近未来のことだろう」と、締めくくった。

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