ヒトの言語獲得で重要な役割を果たす「音声模倣」
京都大学は4月15日、前言語期の6か月児69名を対象に、発話者の口を見る傾向が強い乳児ほど、音声模倣を行うという新たな事実を発見したと発表した。この研究は、同大大学院教育学研究科の明和政子教授、武蔵野大学教育学部の今福理博講師、追手門学院大学心理学部の鹿子木康弘准教授らの研究チームによるもの。研究成果は、国際学術誌「Developmental Science」のオンライン版に公開されている。
画像はリリースより
周囲の人が発する音声を真似する「音声模倣」は、ヒトの言語獲得において重要な役割を果たすといわれている。しかし、乳児がどのように音声模倣をしながら言語を獲得していくのか、その具体的な過程については明らかにされていなかった。
聴覚情報と発話者の顔に含まれる視覚情報を同時に利用し、音声を模倣
研究グループは、「発話者の口の動き」や「アイコンタクト」といった視覚情報が、音声模倣の促進に関連すると予測し、実験を行った。
実験1では、生後6か月児46名を対象に、母音(「あ」、「う」)を発する発話者の顔に対する視線反応と、音声模倣反応を記録。その際、「音声模倣時にどこを見ているか(知覚)」と「実際にどの程度音声模倣を行うか(産出)」の2点に着目。具体的には、発話者の通常の顔情報(正立条件)と、顔情報を利用することが難しい上下180°回転させた顔(倒立条件)の2種類のどちらかひとつの視覚刺激をモニター上に提示し、同時に発話音をスピーカーを通して聞かせた。その結果、倒立条件に比べて正立条件の視覚刺激を提示したときに、乳児は音声模倣を頻繁に行った。さらに、正立条件においては、発話者の口唇部を長く注視した乳児ほど、音声模倣の頻度が高いことがわかった。
実験2では、乳児23名にアイコンタクトをしている発話者(直視条件)と、目を逸らしている発話者(逸視条件)の、どちらか一方をモニター画面に提示し、同様に発話音を流した。その結果、逸視条件に比べて直視条件のときに、乳児は頻繁に音声模倣をした。さらに、直視条件と逸視条件の双方において、発話者の口唇部を長く注視した乳児ほど、音声模倣の頻度が高いことも判明。これら一連の結果は、前言語期の乳児において、発話者の顔情報、特に口唇部の動きやアイコンタクトが音声模倣を促進する要因であることを示している。つまり、乳児は発話者の音声(聴覚情報)のみでなく、顔に含まれる視覚情報を同時に利用しながら音声模倣することで、言語を学習していくと考えられるという。
研究グループは、「今後は、本研究で明らかとなった乳児の音声模倣時の知覚-産出の関係が、その後に見られるより複雑な語彙獲得の個人差とどう関連するかを解明することが課題となる。その解明により、科学的根拠に基づくヒトの言語発達の本質的理解、さらには言語発達の新たな支援法の開発を可能にすることが期待される」と、述べている。
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・京都大学 研究成果