重症な患者ほどα-シヌクレイン凝集体が多く蓄積
大阪大学は4月12日、超音波を用いた全自動タンパク質凝集検出装置を用いてパーキンソン病患者の脳脊髄液中から原因タンパク質α-シヌクレイン凝集体の検出に成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の角田渓太医員、池中建介助教、神経内科学の望月秀樹教授らの研究グループが、同大蛋白質研究所の後藤祐児教授らと共同で行ったもの。研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、同日付で公開された。
画像はリリースより
これまで、神経難病のひとつであるパーキンソン病の原因としてα-シヌクレインというタンパク質の凝集体が脳内に蓄積することが注目されてきた。重症な患者ほどα-シヌクレイン凝集体が多く蓄積していることが亡くなった後の病理解剖からわかっているが、生前にその程度を検査する方法はこれまでになかった。また、パーキンソン病の発症時点では蓄積がかなり進んだ段階にあることも知られている。
現在、この凝集体の蓄積を抑えることが根本的な治療につながるのではないかと期待され、世界中で治療開発が進められている。しかし、脳内の凝集体の蓄積量を知る方法がないため、治療開発にあたって、より治療の効果が期待できる発症早期の患者を正確に選出できない、治療の効果を直接判定できない等の課題があった。
超音波を用いた全自動装置により、α-シヌクレイン凝集体の検出を実現
今回研究グループは、共同開発したHANABI(HANdai Amyloid Burst Inducer)を用いて、脳脊髄液中のα-シヌクレイン凝集体の検出に成功した。HANABIは、凝集体を増幅するための超音波照射装置と凝集体測定器を組み合わせた機械で、リアルタイムに多数の試料で凝集体が増幅されていく過程を観察することができる。一度にたくさんの患者の脳脊髄液を測定することができ、凝集体が増幅される速さ(凝集活性)から、個々の患者の脳脊髄液中に存在する凝集体量を推定することが可能だ。
研究グループはまず、人工的に作成した凝集体や細胞モデルから放出された凝集体をHANABIで極めて短時間で検出できることを示した。さらに、パーキンソン病の患者の脳脊髄液の凝集活性が、実臨床で用いられている指標であるMIBG心筋シンチグラフィの取り込み低下の程度と相関することを示した。MIBG心筋シンチグラフィの取り込み低下はパーキンソン病の診断を支持する重要な所見であり、重症な患者ほど低下していて、心臓の末梢神経での凝集体蓄積を反映する指標と考えられている。これらの結果からHANABIによる脳脊髄液のα-シヌクレイン凝集活性が、脳内の凝集体蓄積を反映する指標となり得ることが示された。
今回の研究成果により、脳脊髄液検査によるパーキンソン病の臨床診断、重症度評価への応用が期待される。また今後、発症早期あるいは発症リスクが高い患者の検査を行うことやα-シヌクレイン凝集抑制治療の効果判定を、動物モデルを用いて行うことで、パーキンソン病の根本治療開発に活用できることが期待されると、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・大阪大学 研究情報