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オートファジー機能の欠損が自閉症様行動を誘導−理研

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2019年04月15日 PM12:30

タンパク質恒常性の低下が精神疾患をもたらす

(理研)は4月11日、細胞内のタンパク質分解に関わる「オートファジー機能」の欠損によるタンパク質恒常性の低下が、自閉症様の行動を誘導することを発見したと発表した。この研究は、同脳神経科学研究センタータンパク質構造疾患研究チームの田中元雅チームリーダー、ケルヴィン・フイ研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「Science Advances」に4月10日付で掲載された。


画像はリリースより

オートファジーの活性を制御する重要な因子として、タンパク質リン酸化酵素mTORが知られている。mTORシグナルを制御するタンパク質TSC1/2などの遺伝子の変異が、自閉症患者の一群に見られるため、その結果生じるmTOR活性の異常な増加が、さまざまな発達障害や精神疾患に関与していると考えられている。

研究グループはこれまでに、精神疾患の危険因子タンパク質の凝集化が神経機能を低下させ、精神疾患をもたらすことを報告している。しかし、もっと一般的に、タンパク質の恒常性の低下や凝集化が精神疾患や発達障害の発現に関与するか否かは、依然として不明だった。そこで研究グループは、オートファジー機能を欠損させ、細胞内のタンパク質恒常性を全体的に低下させれば、タンパク質恒常性の低下や、それによる凝集化が神経機能や個体の表現型にどのような影響を与えるかをより一般的に調べられると考え、今回の実験を行った。

オートファジー機能欠損でGABARAPがp62凝集体に巻き込まれる

研究グループはまず、オートファジー機能を欠損させるために、その機能に重要な役割を果たすユビキチン活性化酵素Atg7の遺伝子を興奮性または抑制性神経細胞から欠損させたマウスをそれぞれ作製し、それらのマウスの行動を調べた。その結果、両欠損マウスは類似した行動障害を示し、その中で特に共通していたのは社会性の欠如、不安の亢進、巣作り行動の減少だった。

次に、これらの行動障害の分子機序を調べるために、オートファジー機能欠損により凝集化が増加したタンパク質を網羅的かつ定量的に解析できる新しいプロテオミクス手法(アグリオーム解析法)を開発した。その結果、抑制性の神経伝達物質GABAの受容体の1つGABAA受容体の細胞表面への輸送に関わるGABARAPL2というタンパク質の凝集化が著しく増大していることが明らかとなり、さらに、3種類存在するGABARAPタンパク質群(GABARAP、GABARAPL1、GABARAPL2)の全てが、オートファジー機能が欠損すると著しく増加するタンパク質p62の凝集体と共局在(共凝集)していることが明らかになった。

さらに、Atg7欠損神経細胞において、p62と共凝集しないGABARAPL2変異体を発現させたところ、細胞表面におけるGABAA受容体の量が回復した。これにより、p62とGABARAPタンパク質群との共凝集化が、細胞表面におけるGABAA受容体量の減少、ひいては神経細胞における興奮性と抑制性のバランスが低下したことが示された。

ヒト自閉症患者死後脳でGABARAPとp62が増加

さらに、mTORシグナルを負に制御し、かつ自閉症様の行動を示すことが知られている「結節性硬化症」の原因でもあるTSC2の遺伝子発現量を低下させた。その結果、p62の凝集形成とともに、GABARAPタンパク質群がその凝集体に巻き込まれ、神経細胞表面のGABAA受容体量も減少したことが分かった。以上の結果から、TSC2機能の低下によって抑制性のシグナル入力を受け取る受容体が減り、神経細胞の興奮性が高まる理由が分子レベルで明らかとなった。

最後に、ヒト自閉症患者の死後脳を用いて関連タンパク質の定量を行ったところ、凝集したGABARAPタンパク質群およびp62の量が増大しており、それは、TSC2の発現量と負の相関が見られた。この結果は、頻度は低いものの、Atg7やGABARAPタンパク質群の遺伝子欠損が自閉症や知的障害に関わるという遺伝学的な報告とも合致し、GABARAPタンパク質群の凝集化による機能不全が自閉症様の行動を誘導する一因になっていることを示唆するもの。神経系の疾患にとどまらず、がんや糖尿病などの他の疾患においても、mTORシグナルやGABAシグナルの関与が示唆されている。今回の研究で得られた知見は、発達障害や精神疾患に対しての新たな治療法開発だけでなく、これらの研究への波及効果も期待できると、研究グループは述べている。

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