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選択肢の「価値比較」が、眼窩前頭皮質で行われていると判明-筑波大

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2019年04月10日 PM12:15

選択行動に関わる処理を神経細胞レベルで明らかに

筑波大学は4月5日、脳の前頭前野の腹側表面に位置する眼窩前頭皮質において、その個体にとって「どちらの選択肢がより価値が高いか」という選択行動に関わる処理が行われていることを神経細胞のレベルで明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の設楽宗孝教授、瀬戸川剛助教らの研究グループが、、米国NIHと共同で行ったもの。研究成果は「Communications Biology」に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトは生活の中で、複数の選択肢の中からひとつを選択して行動しなければならない場面に直面する。意思決定に基づく行動選択を行う際には、その選択肢を選んだことで得られると期待される報酬と、その報酬を得るまでに必要な作業負荷との兼ね合いから、それぞれの選択肢の主観的な価値を見積もると考えられている。

これまで、この価値の見積もりに重要な役割を果たす脳部位として、前頭前野の腹側表面に位置する眼窩前頭皮質が注目されてきたが、詳しいメカニズムは明らかにされていなかった。また、脳の活動と行動の因果関係のチェックも行われていなかった。

眼窩前頭皮質で、価値の比較に関わる処理をしている可能性

研究グループは、見積もられた選択肢の価値の比較が眼窩前頭皮質で行われていると仮説を立て、この仮説を検証するために、ヒトに近縁なアカゲザルを用いて実験を行った。まず、サルを3本のバーが付いたイスに座らせ、その前に行動課題が提示されるモニターを設置。サルが中央のバーに触れると行動課題が開始となり、最終的に得られる報酬の量(明るさで示される)と、その報酬を得るまでに必要な作業負荷(長さで回数が示される)の、2つの情報を示したターゲット(選択肢)が順々に提示される。その後、それら2つのターゲットがモニター中央の注視点の左右に再度提示される。このときサルは、左右どちらかのバーに触れることで、それぞれに対応したターゲットを選べる。選択後、作業負荷としてそのターゲットが示す回数だけ視覚弁別試行を行うことで、報酬である水を得ることができる。この課題遂行中の眼窩前頭皮質の神経細胞の活動を、単一神経細胞活動記録法を用いて記録した。

今回、選択の前に、順々に選択肢を提示する工夫をしたことで、これまでの研究では明らかにできなかった「選択肢の価値の比較に関わる神経細胞の活動」の有無を調べることができた。つまり、2つ目の選択肢が提示されたときの眼窩前頭皮質の神経細胞の活動と、1つ目と2つ目に提示されたターゲットの主観的な価値の差分との間に相関があれば、その神経細胞の活動は、選択肢の価値の比較に関わっている可能性があるといえるわけだ。

研究グループは、数理モデルを用いてサルの実際の行動選択から、それぞれのターゲットの主観的な価値を数値化。2つ目の選択肢が提示されたときの眼窩前頭皮質の神経細胞の活動を解析した結果、多くの神経細胞の活動が、提示された2つの選択肢の主観的な価値の差分と相関を示した。さらに、眼窩前頭皮質にムシモルを局所注入してこの部位を不活性化すると、2つの選択肢の価値の差分が小さく、どちらを選んだらよいかの選択が困難な場合に、より価値の低いターゲットを選ぶという、非合理的な選択の頻度が有意に上昇した。

以上の結果から、選択行動において眼窩前頭皮質は、提示された選択肢の価値の差分、すなわち「どちらの選択肢がより価値が高いか」という、価値の比較に関わる処理を担っていることが示唆された。

購買行動の予測など、マーケティング分野への貢献にも期待

研究グループは「眼窩前頭皮質で処理された「どちらの選択肢がより価値が高いか」を表す信号が、脳内のどの経路を通り、最終的な選択となって実際の行動として出力されるのかを明らかにすることが今後の課題」と、述べており、意思決定に基づく行動選択に関わる、神経ネットワークの情報処理機構を解明できれば、眼窩前頭皮質を含めた脳部位の損傷により引き起こされる適切な選択行動の阻害の治療に役立つだけでなく、ヒトの購買行動を予測するモデルの構築など、マーケティング分野にも貢献できるものと期待される。

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