薬剤排出膜タンパク質複合体「MexAB-OprM」の構造解析に世界で初めて成功
大阪大学は4月3日、院内感染で問題になる多剤耐性緑膿菌で働く薬剤排出膜タンパク質複合体「MexAB-OprM」の構造解析に世界で初めて成功し、菌体内で複合体が構築される仕組みや、薬剤排出の新しい制御機構を明らかにしたと発表した。この研究は、同大蛋白質研究所の堤研太大学院生(現・特任研究員)、米原涼特任研究員(現・株式会社Epsilon Molecular Engineering研究員)、岩崎憲治准教授(現・筑波大教授)、中川敦史教授、山下栄樹准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国の科学誌「Nature Communications」で公開されている。
画像はリリースより
複数の抗菌剤が効かない多剤耐性緑膿菌による免疫不全患者への院内感染は、重篤な症状を引き起こし社会的に大きな問題となっている。緑膿菌が多剤耐性化する主な原因としては、菌体にとって毒物である抗菌剤を、薬剤排出タンパク質複合体が菌体外に排出してしまい、抗菌剤を効かなくしていることが挙げられている。
薬剤排出タンパク質複合体は、環境の異なる膜にある2種類の膜タンパク質と1種類のタンパク質から構成されており、これまでに、各構成タンパク質の構造は明らかにされている。しかし、これら3種類のタンパク質がどのように連携して複合体を形成し、菌体内に侵入してきた抗菌剤を排出しているのかについては、未解明だった。
多剤耐性菌に対する新しい抗菌剤開発の可能性
今回研究グループは、薬剤排出タンパク質複合体「MexAB-OprM」を安定に単離する方法を発見。クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析法を用いて、菌体内で働いている薬剤排出タンパク質複合体の構造を決定した。
また、今回決定した構造から複合体の構造形成に必須のアミノ酸残基や薬剤の排出過程の鍵となる動きを見出し、変異体を用いた解析により薬剤耐性が下がることを確認。これにより、複合体形成を阻害する化合物や複合体としての排出過程を阻害する化合物を開発できれば、新規の抗菌剤の開発に繋がる可能性があるという。
研究グループは「抗菌剤の菌体外への排出を抑える化合物の設計が容易になり、これまでにない新しい仕組みに基づく多剤耐性菌に対する抗菌剤の開発に繋がることが期待される。特に、MexAB-OprM複合体は緑膿菌における薬剤排出の最も主となる複合体分子であるので、この複合体の阻害剤ができれば、これまで排出されていた抗菌薬が菌体内で作用することになり、多剤耐性緑膿菌の特効薬となる可能性がある」と、述べている。
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