長野県須坂市の母子保健関係者と協働で開発
国立成育医療研究センター(NCCHD)は4月2日、長野県須坂市の母子保健関係者と協働し、産後の母親のメンタルヘルスを向上させる母子保健システム「須坂モデル」を開発したと発表した。この研究は、同センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科の立花良之診療部長らの厚生労働科学研究班グループによるもの。研究成果は「BMC Pregnancy and Childbirth」に掲載されている。
画像はリリースより
周産期は、うつ病などさまざまな精神障害の好発時期であるが、なかでも産後うつ病は、出産した十数%の母親に生じる非常に頻度の高い病気である。周産期に母親の精神状態が悪いと、母親のみの問題にとどまらず、養育不全や乳幼児虐待のハイリスク要因ともなる。周産期の母親には母子保健のさまざまな職種が関わるが、それらの職種の連携は難しいのが現状。そのため、周産期の母親に関わる職種が連携してサポートするような母子保健システムの確立が望まれている。
一方で、これまでの国内外の妊産婦のメンタルヘルスに対する介入研究は、助産師・保健師・精神科医など、1つの職種によるものがほとんどだった。
地域全体の産婦のメンタルヘルスが向上
今回開発された須坂モデルは、妊娠届を出した全ての妊婦を対象に保健師が面接を行い、心理社会的アセスメントを行うもの。さらに、心理社会的リスクのある親子に対し、保健師・助産師・看護師・産科医・小児科医・精神科医・医療ソーシャルワーカーなどによる多職種のケース会議を、中核病院である長野県立須坂病院(現:信州医療センター)で行い、ケースマネージメントを行って、多職種でフォローアップする。
実際に、産後に須坂モデルを実行し、4か月目に対象群と比較した結果、同モデル介入群では、エジンバラ産後うつ病質問票の点数が、統計的に有意に低下した。これにより、地域全体の産後メンタルヘルスが向上したことが示されたと言える。また、心理社会的リスクの観点から「気になる親子」として多職種でサポートする親子のケース数も、著しく増加したという。
多職種でどのように連携し、周産期のメンタルヘルスケアを行うかについては、国際的な治療ガイドラインである英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)でも、有効性のエビデンスのあるモデル開発が喫緊の課題とされており、世界の母子保健において研究開発が望まれている領域である。今回の研究で得られた須坂モデルは、国際母子保健のニーズにも応える、有効性のエビデンスのある母子保健システムとなる。
研究グループは「今回、須坂モデルの有効性についての科学的根拠が実証された。妊娠期からの切れ目のない支援において、行政・医療の連携は不可欠であり、エビデンスに基づく須坂モデルのような母子保健システムがさらに広まっていくことが望まれる」と、述べている。
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・国立成育医療研究センター(NCCHD)プレスリリース