非侵襲的な脳刺激法「tDCS」の作用メカニズムに迫る
金沢大学は3月26日、健常成人男性において経頭蓋直流刺激(Transcranial direct-current stimulation:tDCS)による注意機能の改善にドパミン系神経伝達が関わることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大学附属病院神経科精神科の深井美奈助教、子どものこころの発達研究センターの菊知充教授、浜松医科大学生体機能イメージング研究室の武内智康特任助教、尾内康臣教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Translational Psychiatry」のオンライン版に3月15日付で掲載された。
画像はリリースより
tDCSは頭皮上に置いた電極から極めて微弱な直流電気を流して脳を刺激する方法で、背外側前頭前野(DLPFC)への電気刺激は、主に前頭葉が司るとされる注意機能や,作業記憶・問題解決・衝動制御などを制御する機能である遂行機能を変化させることが報告されています。近年、非侵襲的な脳刺激法として広く受け入れられるようになったものの、その詳しい作用メカニズムは解明されていない。
これまでに、いくつかの報告で、tDCSの効果はドパミンの分解酵素であるカテコール-O-メチルトランスフェラーゼの活性により変化すること、ドパミンの前駆物質であるレボドパの投与でtDCSの効果が変化すること、tDCSが脳内ドパミンを放出させることなど、tDCSが脳内ドパミン神経に与える影響が示されていた。しかし、tDCSによる脳内ドパミン系神経伝達の変化が、実際に注意機能や遂行機能の変化と関連するかどうかはこれまで検証されていなかった。
tDCSでドパミン放出を確認、ADHDへの臨床応用に期待
同研究グループは、DLPFCへのtDCS後、および、tDCSによる刺激とは異なる刺激を与えた比較実験としてsham刺激(生理的な意味のない刺激)後に、陽電子放出断層撮影(PET)によって脳内のドパミン放出を、心理機能検査(CANTAB)によって注意機能と遂行機能の変化をそれぞれ評価した。対象者は、20人の健常成人男性。PETの結果からは、tDCSにより右の腹側線条体でドパミンが放出されることが確認された。また、tDCSにより注意機能と遂行機能が強化されることが確認されたという。興味深いことに、PETによる右の腹側線条体でのドパミン放出が多いほど、注意機能も大きく強化されることが分かった。一方で、遂行機能の強化とドパミン放出にはこうした関連性は認められなかったという。このことは、tDCSによる注意機能の強化はドパミンの放出により起こっている可能性を示唆している。
今回の研究はtDCSの注意機能が強化される生理学的な機序を明らかにしたという点で極めて画期的で、世界初のものとなる。今後、脳内ドパミン伝達が減弱することで注意機能が低下する疾患として知られる注意欠陥多動性障害(ADHD)への臨床応用が期待されると研究グループは述べている。
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