可溶性エポキシド加水分解酵素の異常が関与
千葉大学は3月18日、自閉症スペクトラム障害(ASD:autism spectrum disorder)や統合失調症などの神経発達障害の病因に、多価不飽和脂肪酸の代謝に関わる可溶性エポキシド加水分解酵素(sEH:soluble epoxide hydrolase)の異常が関与していることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授、大学院医学薬学府の馬敏博士課程らの研究グループによるもの。研究成果は「PNAS」に掲載されている。
ASDや統合失調症は代表的な神経発達障害だが、その病因は未だ明らかにされていない。多くの疫学研究から、妊娠期の母体免疫活性化(MIA:maternal immune activation)が、生まれてきた子供の神経発達障害の発症リスクを高くすることが示唆されている。
sEH阻害薬TPPUが、仔マウスのASD症状関連行動を抑制
研究グループは、toll-like receptor-3のアゴニストであるpoly(I:C)を妊娠マウスに投与した動物モデル(母体免疫活性化モデル)を用いて、これらの疾患の病因にsEHが重要な役割を果たしている事を明らかにした。
同研究の結果、母体免疫活性化モデルの妊娠マウスから生まれた仔マウスの4週齢時の前頭皮質のsEHの発現は、生理食塩水を投与した妊娠マウスから生まれた仔マウスと比較して有意に高く、同部位におけるエポキシ不飽和脂肪酸の量は有意に低かった。また、妊娠マウスへのsEH阻害薬TPPUを飲料水として与えると、生まれてきた仔マウスのASDの症状に関連する行動を抑制。仔マウスの4~8週齢までTPPUを飲料水として与えると、10週齢以降の統合失調症の症状に関連する異常(行動異常や前頭皮質におけるパルブアルブミン陽性細胞の低下など)を抑制したという。
sEHは、多価不飽和脂肪酸(アラキドン酸、EPA、DHAなど)の代謝系におけるエポキシ脂肪酸の加水分解に関わる重要な酵素であり、炎症に関わるため、近年注目されている。神経発達障害の前頭皮質では、sEHが増加することにより、抗炎症作用を有するエポキシ不飽和脂肪酸が低下し、これらの疾患発症に繋がっていると推測されている。研究グループは、「今回の研究成果は、母体免疫活性化が関与する神経発達障害の新しい予防薬・治療薬になるものと期待される」と、述べている。
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・千葉大学 プレスリリース