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肝臓の過剰な鉄が肝臓がんを引き起こすメカニズムを解明-九大

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2019年03月20日 PM12:30

肝臓に鉄がたまると発がんが促進

九州大学は3月18日、肝臓の過剰な鉄が、肝臓がんの発がんを促進するメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、西山正章助教(現金沢大学・教授)、武藤義治研究員、諸石寿朗研究員(現熊本大学・准教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Experimental Medicine」に3月15日付で公開された。


画像はリリースより

肝臓がんは、ウイルス性肝炎や肝硬変などの慢性の肝臓病により引き起こされる悪性腫瘍。近年、慢性の肝臓病の患者では肝臓に鉄がたまりやすく、それが肝臓がんの発症を増加させたり、生存率を低下させたりするという現象が報告されていた。しかし、肝臓病でなぜ鉄がたまるのか、そして鉄が肝臓にたまることが発がんとどのように関係するのか、という点については未解明だった。

FBXL5の減少とIRP2の蓄積が原因と判明

研究グループは今回、肝臓がん患者のトランスクリプトームデータを解析。その結果、細胞内の鉄の量を制御しているタンパク質「」の量が低下していると生存率が低下することが判明した。このことから肝臓がんの発症に、FBXL5による鉄コントロールの異常が関係しているのではないかと考え、マウスを用いた肝臓がんとFBXL5との関係の解析に着手した。

まず、FBXL5を欠損させたマウスに発がん物質を投与して調べたところ、正常マウスに比べて発がんが促進した。ウイルス性肝炎モデルマウスでも、FBXL5の欠失が肝臓がんの発症を強力に促進することが観察された。これらの結果より、FBXL5を介した鉄コントロールの異常が肝臓がんの発症と極めて相関することが示された。次に、肝臓に鉄がたまることが肝臓がんの発症を促進する理由を調べるために、トランスクリプトーム解析を行ったところ、FBXL5を欠失した肝臓では大変強い酸化ストレスが生じており、これが遺伝子にダメージを引き起こしたり、肝臓の炎症を促進したりして、最終的に発がんを促進することがわかった。

FBXL5はIRP2というタンパク質を分解して機能を発揮することが知られているため、FBXL5が欠損した状態では、IRP2が蓄積して鉄コントロールに影響を与えていると予測される。そこで研究グループは、FBXL5を欠失した肝臓にさらに遺伝子操作でIRP2が蓄積しないようにしたところ、肝臓がんの促進が抑えられ、回復した。これらから、FBXL5を欠失することによる肝臓の鉄の過剰と発がんの促進はIRP2の蓄積が原因である可能性が示された。実際、ヒトの肝臓がんにおいてもIRP2の蓄積は生存率の低下と関連することが分かった。

鉄に着目した肝臓がんの新たな予防・治療法開発へ

以上の結果から、肝臓においてFBXL5の低下は、IRP2の異常な活性化により細胞内の鉄が過剰となることで、酸化ストレスや炎症を引き起こし、肝臓がんの発症を促進することが明らかになった。また、肝臓におけるIRP2の抑制は、肝臓がんの新たな治療標的となる可能性が示唆された。

今回の研究成果は、IRP2の働きを抑えて鉄の過剰を防ぐことで肝臓がんを予防・治療できる可能性を示すものとなる。また肝臓でFBXL5を欠損したマウスは、鉄の過剰を伴う発がんのモデル動物になると考えられる。今後はこのモデルマウスを用いて、肝臓がんの発症メカニズムを解明するとともに、治療薬剤の探索を行うことで、治療への応用を目指していきたいと研究グループは述べている。

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