患者の8割以上が高齢者、加齢に伴う副作用発生頻度増などに配慮を
キョーリン製薬ホールディングス株式会社とキッセイ薬品工業株式会社は2月28日、メディアフォーラムを開催。「過活動膀胱(Overactive Bladder:OAB)の病態と治療~新たな治療選択肢を探る~」と題し、国立長寿医療研究センター副院長で手術・集中治療部長、泌尿器外科部長の吉田正貴氏が講演した。
国立長寿医療研究センター副院長
吉田正貴氏
OABは、加齢や神経疾患などにより尿意切迫感や頻尿といった症状が現れる症状症候群。2014年に山上らが行った調査では、OAB治療薬が処方された患者のうち、83.1%が65歳以上で、患者の平均年齢74.0歳と高齢の患者が多かったことから、高齢化に伴い今後の患者増加が見込まれる。高齢者におけるOAB診療の問題点として、吉田氏は「加齢に伴う副作用発生頻度の増加、フレイル・サルコペニア、認知症、生活習慣病などの合併症での多剤服用による抗コリン負荷などが問題となる。これらに対する配慮が必要だ」と指摘する。
治療法の選択においても、高齢者の現状をふまえた選択肢を考える必要がある。OABの治療には行動療法と薬物療法があるが、薬物療法に用いられるのは主に抗コリン薬とβ3アドレナリン受容体作動薬だ。2015年に刊行された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』では、抗コリン薬(ムスカリン受容体拮抗薬)は「特に慎重な投与を要する薬物」に挙げられており、口内乾燥や便秘、排尿症状の悪化、尿閉といった副作用が生じやすいとしているほか、2018年には厚生労働省が「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)について」の通知を発出するなど、多剤服用患者では抗コリン作用へのさらなる注意を要する。軽度の認知機能を有する高齢者で認知機能が悪化した例も報告されているため、『過活動膀胱診療ガイドライン第2版』でも、軽度の認知症を有する高齢患者に対しては、抗コリン薬は注意深い投与が必要としている。
抗コリン負荷が懸念される高齢者に、β3アドレナリン受容体作動薬という選択肢
抗コリン薬以外のOABの治療薬として、β3アドレナリン受容体作動薬のミラベグロンが2011年に登場し、OAB治療の選択肢が広がった。2018年には、2剤目のβ3アドレナリン受容体作動薬としてビベグロン(製品名:ベオーバ)が発売。プラセボを対象とした第3相試験では、投与開始から12週時の1日平均排尿回数が、同剤50mgを投与した群でベースラインから-2.08回と、プラセボ群(-1.21回)と比べ排尿回数の有意な改善効果が認められている(p<0.001、cLDA法)。副作用はプラセボ群の5.1%、ビベグロン50mg群の7.6%、ビベグロン100mg群の5.4%に認められ、発現率1%以上の比較的高頻度に認められた副作用は、同剤50mgで便秘(1.6%)、口内乾燥(1.4%)だった。死亡例、重篤な副作用はいずれの投与群でも認められなかった。
52週間の長期投与を行った第3相試験でも、同剤投与により1日平均排尿回数、1日平均尿意切迫感回数、1日平均切迫性尿失禁回数、1日平均尿失禁回数、夜間平均排尿回数、平均1回排尿量を改善し、その効果は52週まで維持された。副作用は同剤50mgで18.1%、同剤100mgで11.8%に発生し、重篤な副作用では50mg群で1例脳梗塞が認められたが回復したという。
吉田氏は、「OAB治療薬として抗コリン薬を処方する際は、高齢者の抗コリン負荷が認知機能障害やせん妄にも影響する可能性を考慮する必要がある。抗コリン負荷がないβ3アドレナリン受容体作動薬は、高齢者にも安全に使用できるのではないか」とコメント。「高齢化が進むわが国のOAB治療においては、今後β3アドレナリン受容体作動薬がファーストチョイスとなっていくと考えられる」とまとめた。
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