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B型肝炎ウイルスによる新たな発がんメカニズムを発見-国がん

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2019年02月28日 PM12:30

肝臓がんの発生メカニズムを全ゲノム規模で解析

国立がん研究センターは2月26日、肝臓がんのゲノムを新手法で解析し、B型肝炎ウイルスによる新たな発がんメカニズムを発見したと発表した。この研究は、同センター研究所がんゲノミクス研究分野の柴田龍弘分野長らの研究グループによるもの。研究成果は、英専門誌「Nature communications」に2018年4月24日付で発表され、同誌において、ゲノム・エピゲノム領域における特筆すべき論文(Editors’ Highlights)として選抜、紹介された。


画像はリリースより

肝臓がんは日本でのがん死亡者数第5位を占める難治がん。これまでの研究から、肝臓がんの発症には、遺伝子の点突然変異、染色体構造異常、ウイルス感染によるウイルスゲノムの挿入によるゲノム異常、メチル化異常に代表されるエピゲノム異常が関与していることが知られている。しかし、こうした異常と発がんとの関連について全ゲノム規模での解析は行われておらず、その詳細は明らかになっていなかった。

エピゲノム異常がゲノム異常を起こしやすくしていた

今回の研究では、肝臓がんの発生におけるゲノム異常とエピゲノム異常の関連を検討するため、全ゲノムと全エピゲノムの解析に加えて、第3世代シークエンサー(Pac Bio)による全ゲノム解読、およびゲノム濃縮法によるウイルスゲノム解析などの新たな解析手法を行い、合計373症例の肝臓がん症例について解析を進めた。

まず、全ゲノム・全エピゲノムシークエンス解読を実施。その結果、肝臓がんにおける突然変異や染色体構造異常は、「がん細胞で特異的に低メチル化を起こしている領域」「がん細胞で活発に遺伝子発現している領域」の2つの特徴的なエピゲノム状態を示すゲノム領域に有意に濃縮していることが明らかとなった。これにより、がん細胞におけるメチル化異常(エピゲノム異常)がゲノム異常を起こしやすい環境を生み出していると判明した。

次に、喫煙や発がん物質暴露など、さまざまながんの原因と関連している変異シグネチャーの分布を調べた。その結果、変異シグネチャーはゲノム全体に均一に分布しているのではなく、特徴的なクロマチン状態(エピゲノム状態の一部)に応じて偏って存在していると判明。これは、各発がん要因による遺伝子変異の起こりやすさはクロマチン状態によって違うことを意味する。特に、飲酒によって生じるとの説が有力な、肝がんに特徴的な変異シグネチャーは、活性型クロマチンに多く分布していたが、不活性型クロマチンにはわずかしか見られなかった。

ウイルスゲノムは活性化クロマチン状態の領域を狙う

最後に、「ゲノム濃縮法」という手法で108症例のB型肝炎陽性肝臓がん並びに背景の肝炎組織におけるB型肝炎ウイルスゲノムを網羅的に検索し、B型肝炎ウイルスゲノムのヒトゲノムへの挿入と肝臓がんとの関連について、詳細な解析を行った。その結果、背景の肝炎組織におけるB型肝炎ウイルスゲノムの挿入は、活性化クロマチン状態を示す領域に起こりやすい一方で、肝臓がん細胞ではこうした挿入の一部が除かれていることがわかった。これにより、B型肝炎ウイルスゲノムの挿入は肝炎からがん細胞への過程で大きく変化しており、感染した細胞のうちどの細胞ががん化するのかという選択において重要な役割を果たしていることが推測された。

また、全エピゲノムシークエンスに加えて第3世代シークエンサーを用いた全ゲノム解読の結果から、挿入されたB型肝炎ウイルスゲノムは低メチル化のまま維持され、一部では激しい構造異常を示していた。こうしたウイルスゲノムの不安定性もB型肝炎ウイルスによる肝臓がん発症の重要な分子機構の一つであると考えられた。研究グループは、今回の結果を肝臓がんの予防に応用するため、さらにその関係性の背景にある分子機構を解き明かす必要があるとし、今後も研究を進めるとしている。

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