侵襲度の高い手術後、ベンゾジアゼピン系睡眠薬服用でせん妄発症率増加
岡山大学は2月21日、全身炎症によりベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果が増強されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院薬剤部の北村佳久准教授、千堂年昭教授の研究グループによるもの。研究成果は、オランダの学術誌「European Journal of Pharmacology」に2018年11月2日付で掲載された。
画像はリリースより
侵襲度の高い手術後に発症する術後せん妄は高頻度に認められる。せん妄を発症した患者では、転倒や転落などの外傷を負う可能性が高まり、疾病回復の遅延、認知機能の低下といった長期的な問題を持つ場合もある。こうしたことから、せん妄の発現は入院期間の延長につながり、医療費の上昇、医療者および家族の負担増加などをもたらす結果となる。これまでに研究グループは、肺がんおよび食道がんで手術を行った患者を調査した結果、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を持参している患者で、せん妄発症率の有意な増加を報告している。一方で、侵襲度の高い手術患者において、なぜベンゾジアゼピン系睡眠薬を服用している場合にせん妄を発症しやすいのかについての病態像は不明だった。
炎症でGABA-A受容体の機能が亢進し、睡眠薬の作用が増強
今回研究グループは、手術による炎症がベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果を変化させるとの仮説のもとに研究を展開。まず、実験動物に全身炎症を惹起させる化合物をマウスに投与し、血中の炎症性サイトカイン類を増加させた。結果、24時間後には血中の炎症状態は 正常化したが、この時点で脳内では炎症状態が維持されていることがわかった。次に、その脳内の炎症状態が続いている状況に、ベンゾジアゼピン受容体に作用する薬剤を投与したところ、睡眠延長作用が増強することが判明。その増強作用にはGABA-A受容体の機能亢進が関与していること、さらに、全身炎症を抑制することでGABA-A受容体の機能亢進状態も抑制されることを明らかにしたという。
今回の研究により、全身の炎症でGABA-A受容体の機能が亢進することが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果を増強させると示された。この結果は、手術後の患者にせん妄が発症する病態機序の1つと考えられる。今後、さらにせん妄発症の病態機序の解明が進めば、予防策および治療薬の開発につながり、安全な周術期管理の実施が期待されると研究グループは述べている。
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