新しい治療戦略「術前化学療法(ネオアジュバント治療)」
東北大学は1月22日、切除可能膵がんであっても、すぐに切除手術を行うより、術前化学療法を行った後に手術をする方が良好な治療成績が得られることを、世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、東北大学病院総合外科科長の海野倫明教授が代表を務める膵癌術前治療研究会によるもの。研究成果は、1月18日にサンフランシスコで開催されたASCO-GI(米国臨床腫瘍学会-消化器がんシンポジウム)において口頭発表された。
画像はリリースより
治療成績が不良なことで知られる膵がんは、治癒切除が長期生存をもたらす唯一の方法となっている。現在、切除可能膵がんに対する標準治療は、「切除手術を行った後に抗がん剤を半年間投与する」というもの。抗がん剤治療の進歩によりその治療成績は徐々に向上してきているものの、術後の補助化学療法では、全身状態の回復が不良な場合や手術の合併症がある場合には十分な抗がん剤治療が行えないという問題点もあった。一方、手術前に抗がん剤治療を行う術前化学療法(ネオアジュバント治療)は、速やかに治療が開始できるとともに、術後補助化学療法に比べて抗がん剤の投与量を多くすることができるため、新しい治療戦略として期待されている。しかし、有効性に関して明らかなエビデンスは示されておらず、ランダム化比較試験による証明が待ち望まれていた。
術前化学療法は手術先行に比べて治療成績が良好だった
今回、膵癌術前治療研究会は、切除可能膵がんに対して、塩酸ゲムシタビンとS-1の併用療法(GS 療法)による術前化学療法の有効性を評価するためのランダム化比較試験(Prep-02/JSAP-05 試験)を企画し、2013年1月から患者登録を開始。日本全国57施設の医療機関から切除可能膵がんと診断された364例の患者が登録され、標準治療群(手術先行群)と、試験群(術前治療群)にランダムに割り付け(1:1)、治療成績を観察した。
その結果、平均生存期間は手術先行群が26.65か月であったのに対して、術前治療群では36.72か月と、有意に生存期間が延長することが判明(p=0.015)。2年生存率は、手術先行群は52.5%であったのに対し、術前治療群は63.7%と良好で、術前治療を行うと死亡リスクが28%減少することが分かった(ハザード比 0.72)。術前治療による副作用などの有害事象は、白血球減少、好中球減少などで、重篤なものはなかったという。
今回の成果により、膵がんの診療ガイドラインが改定され、切除可能膵がんの標準治療に術前化学療法が取り入れられるとともに、国内の医療機関で広く実施されることにより、膵がんの治療成績の向上が期待されると研究グループは述べている。
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