エレクトロニクス制御とタンパク質が不要な人工膵臓
神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)は1月16日、マイクロニードル型「貼るだけ」人工膵臓のプロトタイプを開発したと発表した。この研究は、東京医科歯科大学生体材料工学研究所バイオエレクトロニクス分野の松元亮准教授(神奈川県立産業技術総合研究所 非常勤研究員兼務)らが、神奈川県立産業技術総合研究所の陳思淵研究員、名古屋大学環境医学研究所の菅波孝祥教授と共同で行ったもの。研究成果は、「Advanced Functional Materials」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、糖尿病に対するインスリン治療においてインスリンポンプの普及が進んでいるが、患者におよぼす身体的・心理的負担や機械特有の補正・メンテナンスの必要性、医療経済上の問題など多くの課題がある。このため、エレクトロニクス制御を必要としない、自律型のインスリンポンプである「人工膵臓」の創出が強く求められている。従来、グルコースオキシダーゼやレクチンなどのタンパク質を基材とする試みがなされてきたが、生体由来材料の限界として、タンパク質変性に伴う不安定性や毒性が不可避であり、未だ実用化には至っていない。
水中で2か月以上安定、インスリン供給性能が週単位で持続
研究グループは、これらの課題の解決策として、タンパク質を一切使用せず、完全合成型のグルコース応答性材料であるボロン酸ゲルを用いた解決法を提案。当該グルコース応答性ゲルと再生絹フィブローインを融合したマイクロニードル型の人工膵臓のプロトタイプを開発した。
フィブローインは極めて優れた力学的特性、生体適合性および化学的に可変な生分解性を有し、手術糸や硬組織欠損部代替(埋め込み)材料として認可され、広く利用される生体材料。同グループは、グルコース応答性ゲルとの融合材料化のための化学構造の最適化、ミクロ相分離を制御したプロセスの開発(特願2018-053817)、内部ミクロ構造の評価、分解安定性、力学的特性、皮膚刺入性、血糖値変動に応答したインスリンリリース挙動、マウス皮膚への装着方法などについて検討した。その結果、水中で2か月以上安定し、かつ血糖値依存的なインスリン供給性能が週単位で持続するマイクロニードル材料技術の開発に成功した。
同種競合技術と位置付けられるノースカロライナ大学の「(グルコースオキシダーゼ内包ナノ粒子を利用した)インスリンパッチ」での持続性は数時間オーダーであり、糖尿病患者のQOL改善の観点で求められる「週単位の持続性」ニーズに応えるうえで、今回開発した技術は大きなアドバンテージを有している。研究グループは今後、動物での安全性・治療効果の実証を経て、実用化へ向けた研究を進めていくとしている。
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