BMI高値が生命予後良好と関連する「肥満パラドックス」
東京医科歯科大学は12月20日、透析期腎不全患者のみならず、透析導入となっていない時期の慢性腎不全患者においてもBMI高値が予後良好となり得る可能性を示したことを発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授の頼建光教授と同医療政策情報学分野の伏見清秀特別研究教授、腎臓内科の菊池寛昭大学院生の研究グループによるもの。研究成果は「PLOS ONE」に掲載されている。
慢性腎臓病(CKD)は、世界的に有病率が極めて高い、進行性の疾患。CKDが進行すると末期腎不全となり、透析療法を必要とするだけでなく、心疾患やサルコペニアなどの重大な合併症を引き起こして予後不良となる。
CKD患者は、塩分制限やタンパク摂取制限などで、摂取カロリーが制限される傾向にあるが、生命予後に与える影響は明らかにされていなかった。また、血液透析患者においては、BMI高値が生命予後良好と関連する現象、肥満パラドックスが報告されているが、透析導入となっていない時期(保存期)のCKD患者における至適BMI管理については、CKDの病態の複雑さ、多様さから研究が困難で、画一的な基準は存在していない。
炎症性疾患合併の有無に関わらず、痩身が死亡リスクを増大
研究グループは、日本国内大規模診療データベースであるDPCデータを用いて、過去3年分の日本全国の入院患者情報、処方内容、診療内容などを収集し、緊急入院(非計画入院)となった約2万6,000人の透析未導入のCKD患者におけるBMIと入院時死亡の関係について検証した。まず、抽出症例のBMIを四分位数を用いて4群に分割し、さらに感染症の合併の有無で分け、全8群に分割。主要評価項目は入院後100日以内の院内死亡とし、Cox比例ハザード解析を用いて検証した。
画像はリリースより
その結果、炎症性疾患合併の有無に関わらず、痩身は死亡リスクを増大させる事がわかり(HR: 1.82; 95% CI 1.51-2.19, HR 1.39; 95% CI 1.16-1.67)、また、BMIが高ければ高いほど、入院中の予後が良好となる傾向が明らかとなった。患者群を糖尿病の合併の有無によって層別化すると、痩身は変わらず予後不良だったが、糖尿病を合併する感染症非合併群では、肥満による生命予後に対するメリットは減弱したという。また、糖尿病非合併患者群では、炎症の有無に関わらず、超高体重群が生命予後良好だったが、糖尿病合併群では感染症非合併群において、超高体重群のメリットが高体重群と比べて目立たなかったとしている。
今回の研究は、国内の大規模診療データベースを用いることで、保存期腎不全患者において、感染症の有無、糖尿病合併の有無による細かい層別化を可能とした点、また、それぞれの群においてBMIと生命予後との関連を明らかにした点、高体重が保存期CKDにおいて、生命予後の観点では有利となる可能性を示唆した点において、臨床的な意義があると考えられる。研究グループは、「本研究の結果は、CKD患者におけるより適切な栄養管理の進歩へと寄与する可能性がある」と述べている。
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