詳細な作用機序が不明な抗うつ薬
久留米大学は12月14日、うつ病などの治療に用いる抗うつ薬の作用を強めるためには、脳の海馬歯状回のドパミンD1受容体シグナルの増強が重要であることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部薬理学講座の首藤隆秀講師、西昭徳教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Molecular Psychiatry」に掲載されている。
画像はリリースより
抗うつ薬は、セロトニンなどのモノアミン(神経伝達物質)の再取り込みを阻害することで、脳内のモノアミンを増加させて精神を安定させたり、海馬歯状回における神経新生を促進したりすることがわかっているが、詳細な作用機序は不明。また近年、抗うつ薬により、海馬歯状回の成熟顆粒細胞が未成熟な顆粒細胞に類似した状態に変化することが報告されたが、抗うつ作用との詳細な関係は明らかになっていなかった。
海馬歯状回の顆粒細胞のみでドパミンD1受容体の発現が増加
研究グループは、抗うつ薬によって海馬歯状回で発現が誘導されるドパミンD1受容体と抗うつ作用との関係について研究を実施した。まず、マウスに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のフルオキセチンを2週間投与。脳内の遺伝子発現を解析したところ、海馬歯状回の顆粒細胞のみでドパミンD1受容体の発現が著明に増加していた。ドパミンD1受容体にドパミンが結合すると神経が活性化されるため、ドパミンD1受容体の発現増加が顆粒細胞興奮性の亢進、ストレスに対するセロトニン応答の抑制、神経新生の促進につながり、その結果、ストレスを受けたマウスのうつ様行動の改善が見られた。また、強いストレスを受けたマウスでは、フルオキセチン単独ではうつ様行動の改善が認められなかったが、フルオキセチンとドパミンD1受容体刺激薬を併用すると、ドパミンD1受容体の発現が増加し、うつ様行動の改善が認められたという。
今回の研究では、海馬歯状回のドパミンD1受容体は抗うつ薬の作用発現に重要であり、ドパミンD1受容体の活性化が抗うつ薬の治療効果を改善させることが明らかになった。研究グループは「海馬歯状回のドパミンD1受容体を標的とした薬物療法は、抗うつ薬の治療効果を高めるため、抗うつ薬が効かない治療抵抗性うつ病の有効な治療法になると考えられる」と、述べている。
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