早期の急速な肝臓再生の意義を明らかに
東北大学は12月14日、肝臓が傷害された際、脳からの神経信号が緊急に肝臓再生を促す仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科糖尿病代謝内科学分野および同大病院糖尿病代謝科の今井淳太准教授、井泉知仁助教、片桐秀樹教授らのグループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」電子版に公開されている。
画像はリリースより
肝臓切除後などの重篤な肝臓傷害時には、早い時期から急速な肝臓再生が起こり、その後緩やかな再生が続くことが知られている。また、老化がこの急速な再生が妨げていると考えられている。しかし、この早い時期の急速な肝臓再生にどのような意義があるのか、また、それがどのような仕組みで起こっているのかは未解明だった。
FoxM1経路の活性化で、重篤な肝臓傷害の生存率が回復
研究グループは、マウスの肝臓の70%を切除し重症の肝臓傷害を起こす実験を実施。その結果、脳からの信号は、迷走神経を用いて肝臓に届けられ、次に迷走神経はアセチルコリンを分泌して肝臓内のマクロファージを刺激し、インターロイキン6(IL-6)の分泌を促し、さらにIL-6が肝臓細胞内のシグナル伝達経路(FoxM1経路)を活性化して、強く肝臓の再生を促進することが明らかとなった。この多段階の仕組みは、肝臓内に広く、また多数存在するマクロファージを刺激することで、神経信号を肝臓という巨大な臓器全体に効率よく伝達するために重要と考えられる。
さらに、この神経信号がない場合は、重症肝臓傷害の生存率が低下すること、その状態でFoxM1経路を活性化することで、重篤な肝臓傷害の生存率を回復させることに成功したという。
今回の研究により、肝臓再生の新たな仕組みが明らかになった。この成果は、肝臓疾患の病態解明や治療法の開発、肝臓が老化をきたすメカニズムの解明につながることが期待される。さらには、肝臓がんなどの肝腫瘍手術の際にこの仕組みを制御することで、広範囲の肝切除が可能となり、術後の合併症が少ない治療法の開発につながるものと期待される。
▼関連リンク
・東北大学 プレスリリース