疲弊したキラーT細胞からiPS細胞を作製、再び分化
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は11月16日、ヒトiPS細胞からがん免疫療法の効果を高める再生キラーT細胞の作製に成功したと発表した。この研究は、CiRA増殖分化機構研究部門の南川淳隆研究生(東京大学大学院、T-CiRA)、および金子新准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学誌「Cell Stem Cell」でオンライン公開されている。
がんの免疫療法ではがん細胞を攻撃するキラーT細胞が要となるが、キラーT細胞を多数得ることが難しいことと、キラーT細胞ががん細胞に攻撃を続けることによって次第に疲弊してしまうことが課題だ。そこで、患者の疲弊したキラーT細胞からiPS細胞を作製し、再びキラーT細胞へ分化させることで、若返らせたキラーT細胞を作る手法が開発された。その若返らせたキラーT細胞が元のキラーT細胞の抗原についての情報を継承していることから、がん免疫治療に有効だと考えられている。
しかし、これまでのT細胞の研究から、より質の高いキラーT細胞を誘導するにはDP胸腺細胞という、キラーT細胞の前駆細胞を経る必要があることが示唆されていた。
TCR再構築を引き起こすRAG2遺伝子をゲノム編集で除外
今回の研究で研究グループはまず、DP胸腺細胞を経て質の高いキラーT細胞を誘導する新たな手法を確立。そして、DP胸腺細胞の段階では余計なT細胞受容体(TCR)の再構築が普遍的におこり、それによってキラーT細胞の抗原特異性の能力が落ちることを見出した。
画像はリリースより
そこで、TCR再構築を引き起こす遺伝子(RAG2遺伝子)をヒトT細胞由来iPS細胞においてゲノム編集で除外することにより、余計なTCRの再構築を防ぐことに成功。生体内・外において、がん細胞に対して有効な攻撃をしかけるキラーT細胞を誘導できることを確認した。 一方で、T細胞に由来しないiPS細胞であるHLAホモiPS細胞ストックのiPS細胞を用いる場合、抗原情報を備えたTCRを導入するのみで抗原特異性の安定したキラーT細胞を作製することができたという。
TCRを安定化させて抗原特異性を維持することは、治療効果の向上のみならず副作用の回避にも有用だ。これらの結果は、iPS細胞由来T細胞を用いたがん免疫療法の実用化に向けた安全性と有効性を示す結果の一つとなる、と研究グループは述べている。
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