膵がん発症の相対危険度が非常に高い膵囊胞
旭川医科大学は11月15日、膵臓にできる腫瘍性の囊胞「膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)」患者にみられる膵がんの形成において、IPMN関連膵がんの形成に複数の発がん経路があることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大内科学講座の水上裕輔准教授、北海道大学腫瘍病理学教室(現東北大学病理形態学分野)の大森優子助教、札幌東徳洲会病院医学研究所の小野裕介主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、米科学雑誌「Gastroenterology」オンライン版にて公開された。
画像はリリースより
膵がんの早期発見のためには、膵がんや膵炎の家族歴、糖尿病や慢性膵炎の既往などの危険因子を把握することが大切だ。特に、膵囊胞はほかの危険因子に比べて膵がん発症の相対危険度が非常に高く、無症状であっても超音波などで偶然発見されることが多くなっている。膵囊胞のうち、代表的なものがIPMNである。この囊胞の多くは良性腫瘍だが、それ自体ががん化することがある。また、囊胞とは異なる位置に膵がんが発生する可能性と、大小の膵囊胞が多発し、前駆病変が膵臓全体に拡がっている可能性があるとされる。
一方、これまでに数多くの膵がんに関わる遺伝子変異が発見されている。KRAS遺伝子がその代表であり、膵がんの95%で変異がみられる。また、IPMNの約半数では、GNAS遺伝子に変異がみられる。このほか、多くの膵がん関連遺伝子の異常が知られているが、これらが実際にどのように蓄積しながら「がんへ進化」(前駆病変ががん化)するかについては解明されておらず、膵囊胞の患者の膵臓内にある複数の前駆病変において、遺伝子変異のパターンにどのようなばらつきがあるのかも不明だった。
Branch-off、他の経路と異なる悪性化メカニズムが存在か
今回、研究グループは、30人のIPMN関連膵がんで外科切除を受けた患者の手術材料から合計168か所の検体を採取し、次世代シーケンサーによる大規模な遺伝子変異解析および免疫組織化学法によるタンパクの異常発現解析を実施。その結果、IPMN関連膵がんの形成に複数の発がん経路があることを突き止めたという。
従来、IPMNを背景とする膵がんは、IPMNが直接がん化するIPMN由来がん(Derived/Sequential)と、IPMNとは別の場所の病変ががん化する併存がん(Concomitant/De novo)という2種類に分けられていた。今回、研究チームは遺伝子変異の蓄積パターンから、IPMNと同⼀起源の前駆病変が「枝分かれ」して、独立した病変を形成する新しい発がん経路として「Branch-off」を発見。これにより、これまで臨床的には知られていたIPMNに隣接する併存膵がんの成り立ちが説明できるようになったという。
また、Sequential、De novo、Branch-offはそれぞれ、発がん素地に異なった特徴を持つことが判明。Sequentialの場合には膵管内の微小な病変が少なく、GNAS遺伝子が変異している割合が多い一方で、Branch-offおよびDe novoでは、さまざまなKRAS遺伝子変異パターンの膵管内病変を多く伴うという特徴があるという。さらに、Branch-off経路で形成された膵がんでは、Sequential、De novoの場合に比べて、無病生存期間が長く、再発までに要する時間が有意に延長していることがわかった。このことからBranch-offには、他の2つの経路とは異なる悪性化メカニズムが存在している可能性が示唆されたとしている。
今回の成果について、研究グループは、「膵臓全体の遺伝子情報を利用して、⼀歩踏み込んだプレスクリーニングが実現できる可能性を示唆するもので、『がんゲノム医療』の新たな⼀⼿になると考えている」と述べている。
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・旭川医科大学 プレスリリース