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妊娠中の低栄養やストレスが子の生活習慣病を発症させるメカニズムを解明-東大先端研

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2018年11月07日 AM11:30

成長後に生活習慣病を合併しやすい低出生体重

東京大学先端科学技術研究センターは11月2日、胎生期の悪環境が成人後に生活習慣病を発症させる記憶のメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同センター臨床エピジェネティクス寄付研究部門の藤田敏郎フェローと森典子特任研究員、西本光宏特任助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「JCI-Insight」に掲載されている。


画像はリリースより

妊娠母体の低栄養暴露などの悪環境によって子の出生体重が小さくなると成長後にさまざまな生活習慣病を合併しやすくなるということはこれまで知られていたが、詳細な機序は不明だった。一方、日本を含め世界的に広く低出生体重が認められており、今後ますます大きな問題になっていくことが予想されている。

研究グループは、胎児期の高濃度コルチゾール暴露により生じた高血圧遺伝子の活性化が、エピジェネティク機構(ヒストン修飾やDNAメチル化)により、記憶として残り、成長後に高血圧を発症させるのではないかと推測されているDOHaD仮説に着目。エピジェネティク機構の中でも、DNAメチル化は持続的な遺伝子発現の変化をきたすことから、妊娠時低栄養の子の高血圧発症過程におけるDNAメチル化異常の関与について検討した。

DNAメチル化異常の記憶が成人後の高血圧発生に関与

まず最初に、タンパク食(LP)を妊娠時に与えたラットと胎盤透過性の合成糖質コルチコイド(デキサメサゾン(DEX))を妊娠時に投与したラットを作成。いずれのラットでもその子の出生時体重は低下する一方、成長後には過体重()となり、食塩負荷によって血圧が上昇する食塩感受性高血圧を発症した。そこで、このモデルラットにおける高血圧発症機序を検討するために、血圧調節を司る視床下部の室傍核(PVN)に着目し、その部位の網羅的遺伝子解析を行った結果、912個の遺伝子の発現増加を見出した。その中で、脳内レニン・アンジオテンシン系は交感神経を活性化させ高血圧を生じることから、血圧調節に関連するアンジオテンシンI型受容体(AT1a)遺伝子に焦点を当て、実験を進めた。

エピゲノム解析の結果、妊娠時LPおよびDEX投与ラットの子のPVNでは、メチル化酵素DNMT3aの発現低下とAT1a遺伝子座への結合低下により、DNAメチル化が減少し、その結果、AT1a遺伝子発現の増加を認めた。培養PVN神経細胞を用いた実験においてもDEX添加により、 DNMT3a の発現低下とDNA脱メチル化によるAT1a発現増加を認め、さらにDNMT3aのノックダウンにより、DEX添加と同程度にAT1a発現が増加することを確認した。最後に、生体内におけるDNMT3aの役割を検討するために、PVN特異的DNMT3a欠損マウスを作成したところ、同マウスでは肥満と共にLPやDEX投与を行うことなくAT1a発現増加が認められ、食塩負荷により血圧が上昇し、食塩感受性高血圧を呈した。一方、AT1a欠損マウスでは妊娠時DEX投与にも関わらず食塩負荷による血圧上昇反応は消失した。これらの結果から、妊娠時低栄養による食塩感受性高血圧発症機序として、脳内糖質コルチコイド過剰によるDNAメチル化異常がAT1a遺伝子発現を増加させ、それが記憶として残り、成長後に食塩感受性高血圧を生じることが明らかになったとしてる。

今回の研究は、初めてDOHaD仮説をエピゲノム解析により実験的に証明しただけでなく、肥満と高血圧の関連性の観点からも、意義ある結果を示した。さらに、生活習慣の歪みによる食塩感受性高血圧の発症過程にエピゲノム異常が関与していることから、エピジェネテック修飾薬が新たな高血圧治療薬となる可能性がある。ストレスホルモンの増加は低栄養以外のストレスによっても引き起こされ、周産期医療の高度化と相まって出生体重の低下と低出生体重児の増加が見られる現在、妊婦の物理的、精神的ストレスが生活習慣病の増加につながっている可能性も示唆される。研究グループは、「妊婦の置かれた環境の整備や、妊娠中栄養摂取の見直しといった課題は生活習慣病予防の観点からも重要であり、さらに研究をすすめる必要があると考えられる」と述べている。

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