遺伝性乳がん卵巣がん症候群につながるBRCA1遺伝子の変異
京都大学は10月23日、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の発症メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科放射線遺伝学研究室の笹沼博之准教授、津田雅貴助教(現:広島大学大学院理学研究科助教)、森本俊医学部6回生が、武田俊一教授、同研究科乳腺外科学研究室の戸井雅和教授、米国国立衛生研究所のがんゲノム部門長Andre Nussenzweig博士らと共に行ったもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」(Proceeding of National Academy of Sciences)のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
BRCA1遺伝子の変異は、1990年代に家族性乳がん卵巣がんの原因遺伝子として同定された。 BRCA1遺伝子の変異を持つ女性は、遺伝性乳がん卵巣がん症候群として、乳がんや卵巣がんが起こりやすいことが知られているが、なぜ他の臓器のがんではなく、乳腺や卵巣が発がんしやすいかは不明だった。
2つの機序でエストロゲンが相乗的に乳がん・卵巣がんの発症を促進
研究グループは、BRCA1遺伝子を無くした乳がん細胞とマウス乳腺において、女性ホルモンであるエストロゲンに対する反応を調べた。その結果、妊娠中の血中濃度のエストロゲンに曝露された細胞の染色体DNAには、DNA切断が多数起こっていることを発見。また、エストロゲンによる切断の作用機序や、BRCA1タンパクがどのような分子機構によって切断の蓄積を防止するかも解明したという。
エストロゲンは、従来、正常乳腺細胞や乳がん細胞の増殖促進作用が知られていたが、X放射線のように、染色体DNAを切断する作用は知られておらず、エストロゲンとX放射線は全く違った作用機序で発がんを促進すると考えられてきた。しかし、今回の研究により、BRCA1タンパクが機能しなくなると、エストロゲンが増殖刺激と染色体DNA切断の両方の機序によって、相乗的に乳がんと卵巣がんの発症を促進することが明らかになった。
今回の研究成果について、研究グループは「遺伝性乳がん卵巣がん症候群の発症予測法の開発に貢献する成果だ」と述べている。
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・京都大学 研究成果