QOL低下の原因となる唾液分泌障害
昭和大学は10月12日、マウスES細胞から唾液分泌能を有する唾液腺器官の再生に成功したと発表した。この研究は、同大歯学部口腔病態診断科学講座口腔病理学部門の美島健二教授、歯学部口腔病態診断科学講座口腔病理学部門の田中準一助教、理化学研究所生命機能科学研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダーらを中心とした共同研究グループによるもの。研究成果は英オンライン版科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
画像はリリースより
外分泌腺組織のひとつである唾液腺は、口腔内に唾液を分泌する組織。唾液は、消化作用、抗菌作用および口腔粘膜の保護作用などを有し、口腔内環境の維持に重要な役割を果たしている。唾液分泌低下により種々の障害が生じることが知られているが、その中でも難治性の自己免疫疾患であるシェーグレン症候群や頭頸部がんの放射線治療後などにみられる重篤な唾液分泌障害は、齲蝕、口腔内感染症、摂食嚥下障害および誤嚥性肺炎などの一因となり、著しいQOL低下の原因となることが示唆されている。
これらの対処法としては、人工唾液の使用や残存する腺房細胞の分泌を促進するムスカリン性アセチルコリン受容体アゴニストなどの服用があげられる。一方、腺組織障害が高度で症状が重篤な症例では、これらの治療法が奏功しない場合もあり、より効果的な治療法として失われた腺組織を再生する再生医療の応用が期待されている。
Sox9とFoxc1遺伝子を共発現させ、唾液腺器官を再生
研究グループは、マウス唾液腺発生過程の解析により唾液腺原基の形成に重要な遺伝子Sox9とFoxc1を同定。これらの遺伝子をES細胞から誘導した口腔粘膜上皮に遺伝子導入することで三次元的な唾液腺器官の再生に成功したという。
ES細胞から誘導した唾液腺原基(誘導唾液腺原基)は、形態学的な特徴や遺伝子発現解析からも胎生期唾液腺原基に類似していた。そこで、この誘導唾液腺原基を大唾液腺のひとつである耳下腺を摘出したマウスに同所的に移植すると、残存唾液腺の導管と誘導唾液腺原基が接続して唾液腺へと再生することを確認。さらに、唾液分泌促進薬や味覚刺激により、神経経路を介して再生した唾液腺から口腔内へ再生唾液が分泌されることが確認されたという。
今回の研究で得られた結果は、唾液腺の組織発生の解析はもとより、唾液分泌障害に対する再生医療への応用や薬剤開発、唾液腺腫瘍やシェーグレン症候群などの疾患モデル作出により疾患の病因・病態解析などに有用なツールとなることが期待される。一方、今回の成果を臨床応用するためには、ヒトiPS細胞から唾液腺組織を誘導する必要がある。今後、同研究で得られたこれらの研究成果は、ヒト唾液腺組織やその他の外分泌腺組織の再生にも有用な知見と考えられ、外分泌腺の再生医療における基盤技術になるものと考えられる、と研究グループは述べている。
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・昭和大学 プレスリリース