アミロイドβペプチドを細胞外へ排出
独立行政法人理化学研究所は、細胞の自食の新たな機能として、アルツハイマー病発症のカギとなるアミロイドβペプチド(以下、Aβ)の細胞外への排出を発見した、と10月4日発表した。
(画像はプレスリリースより)
自食機能の喪失とアルツハイマー病発症の関係
研究チームは、通常細胞内につくられた過剰のAβが、細胞内の恒常性を保つために不要物を分解・リサイクルする「自食」システムによって処理されていることに着目。自食機能の喪失がアルツハイマー病の発症と関係するのではないかという仮説をもとに、実験を行ったという。
自食機能喪失で脳内アミロイド斑が減少
研究では、自食能力に関わる遺伝子を欠損させた「自食能力欠損マウス」と、Aβを過剰に蓄積させた「アルツハイマー病モデルマウス」を掛け合わせた“自食能力がなく、かつAβを過剰蓄積した”「掛け合わせマウス」を作製。このマウスの脳内のアミロイド斑を解析したところ、予想に反して、アミロイド斑はアルツハイマー病モデルマウスと比較して約70分の1という極端に少ない量であることがわかったという。
これは、自食能力を失ったことで、Aβは細胞外に排出されずに留まった結果、脳内のアミロイド斑が減少したと考えられる。細胞の自食には、Aβの分解・リサイクルだけでなく、細胞外への排出機能があることが、このことから示された。
細胞内Aβの強い毒性
この掛け合わせマウスを15ヶ月間飼育して脳内の神経細胞を調べた結果、神経細胞が死滅して脳が萎縮し、重量も減少していた。さらに迷路試験では学習能力の低下と記憶障害が発生。アミロイド斑は激減しているにも関わらずアルツハイマー病の症状は抑止されず、神経細胞内のAβが強力な毒性があることがわかったという。
現代社会において最も深刻な病気の一つであるアルツハイマー病は、その予防・治療法の早期確立が強く望まれている。アルツハイマー病では、脳内に細胞から排出された凝集して不溶性のAβが蓄積することが主な原因と考えられている。今回の結果では、細胞の自食がAβの細胞外への排出に関与しているだけでなく、Aβそのものの毒性が示された。こうした新しい知見が今後アルツハイマー病の解明と、予防・治療法の開発につながることが期待できるとしている。(長澤 直)
▼外部リンク
独立行政法人理化学研究所 プレスリリース
http://www.riken.jp/pr/