薬剤の効果を無効化する多剤排出トランスポーター
京都大学は10月3日、細菌の薬剤耐性を引き起こす主な原因である「MFS型多剤排出トランスポーター」が、薬剤を認識して細胞外に排出するメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科と、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所、ドイツのマルティン=ルター大学、東京大学農学生命科学研究科、岡山大学医歯薬学総合研究科、自然生命科学研究支援センターからなる共同研究グループにより行われたもの。研究成果は、「Nature Communications」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
細菌が薬剤耐性を引き起こす主な原因は、細菌膜上に存在する多剤排出トランスポーターと呼ばれるタンパク質が、投与された薬剤をポンプのように細菌外に汲み出してしまい、薬剤の効果を無効化することにある。このMajor facilitator superfamily(MFS)と呼ばれる多剤排出トランスポーターは細菌上に多数存在している。
これらのトランスポーターは、輸送する分子に対する入り口を細胞質に対して内向きから外開きの向きに、繰り返し大きく構造を変化させ、薬剤分子を細菌内から細菌外に輸送すると考えられている。しかし、どのように薬剤分子を認識して細菌外に排出するのか、またその2つの構造がどんな構造を経由して切り替えられるのかなど、具体的なメカニズムは不明だった。
MdfAの外開き構造を解明
研究グループは、MFS型の多剤排出トランスポーターのひとつ、MdfAに着目し、薬剤排出メカニズムの研究を実施。結晶構造解析・輸送活性実験・分子動力学シミュレーションにより、構造解析に成功し、初めて MdfAの外開き構造を明らかにした。また、膜内に存在する特定の酸性残基のプロトン化が、外開き構造から内向き構造への引き金となることも判明。さらに、精製MdfAタンパク質を脂質膜に組み込んだ形で初めて薬剤輸送活性を測定し、薬剤輸送に重要なアミノ酸残基を明らかにしたとしている。
今回の研究により、MdfAが薬剤分子を細胞外に輸送する分子メカニズムの一端が明らかになった。研究グループは、「本知見が薬剤分子排出への理解を深め、将来的には、多剤排出トランスポーターの働きを抑えることで、薬剤耐性菌に対抗する治療薬の開発に貢献できると考えられる」と述べている。
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・京都大学 研究成果