感染時に硫黄代謝物活用で宿主の生体防御異常を引き起こす
東北大学は10月3日、サルモネラが感染時に硫黄代謝物を巧妙に活用することで宿主の生体防御異常を引き起こしていることを、世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の赤池孝章教授らのグループが、熊本大学大学院生命科学研究部の澤智裕教授らと共同で行ったもの。研究成果は「Cell Chemical Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
感染症の治療には抗菌薬が使用されているが、近年の臨床現場では多剤耐性菌の出現により既存の抗菌薬が効かない感染症が深刻な問題となっており、新規の作用機序に基づく抗菌薬の開発が必要とされている。
従来、ヒトの身体には細菌に対するさまざまな防御機構が存在しており、外部からの細菌感染を防いでいることが知られている。しかし、一部の病原細菌は生体防御を巧みに回避する仕組みを備えており、ヒトの身体に細菌が感染・寄生して感染症が拡大する原因となっている。このため、病原細菌が備える生体防御に対する回避機構をターゲットとした新規抗菌薬の開発が期待されている。
哺乳類に存在しない特殊な経路で硫黄代謝物を産生
これまでに赤池教授らの研究グループは、生物に備わっている硫黄代謝物を利用した新規のエネルギー産生系(硫黄呼吸)を世界で初めて明らかにしてきた。この硫黄呼吸は、ヒトを含む哺乳類だけでなく、病原細菌でも生命活動や感染に極めて重要な役割を果たしており、新規抗菌剤の開発のターゲットとして注目されていた。
研究グループは今回、食中毒やチフス症、敗血症などの重症感染症の主要な病原菌であるサルモネラが、哺乳類に存在しない特殊な経路で硫黄代謝物を産生し、それによって生体防御機構のひとつであるオートファジーを積極的に抑制していることを発見。さらに、硫黄代謝物の合成経路を欠損させたサルモネラは感染時にオートファジーから逃れることができず、速やかに殺菌・排除されることも見出したという。
今回の研究結果より、サルモネラは硫黄代謝物を巧みに利用し、硫黄呼吸を営むだけでなく、この硫黄代謝物が病原因子として宿主の生体防御異常を起こし、感染を拡大していると考えられるという。近年、サルモネラの多剤耐性株の世界的な拡大が深刻な問題となっており、今後、病原細菌が持つ独特な硫黄代謝経路をターゲットとした、これまでにない選択性を持つ抗菌薬の開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。
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