被ばく線量の増加で血中の抗酸化能が低下
東北大学は10月1日、被ばく線量が多くなると血中の抗酸化能が低下する現象を発見したと発表した。この研究は、同大災害科学国際研究所災害放射線医学分野の稲葉洋平助教、医学系研究科放射線検査分野の千田浩一教授、産業医科大学の盛武敬准教授ら、筑波大学の孫略研究員ら、九州保健福祉大学の佐藤圭創教授、筑波技術大学の平山暁教授の共同研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
原子力災害や放射線事故災害は、一度発生すると放射線被ばくなど非常に大きな社会的影響を与える。被ばく線量の推定には、医師による診断や染色体検査など、いくつかの既存の方法があるが、臨床症状による推定では個人差が非常に大きくなり、染色体検査には被験者からの細胞培養と検査者の熟練の技術が必要となる。また、トリアージでは、0.5~1Gyの被ばくの有無を見分ける感度が必要とされている。このような背景から、精度・感度と迅速性・簡便性を合わせもつ推定法の開発が必要とされている。
放射線の影響は抗酸化能と深く関係すると考えられており、研究グループはマウスをモデルに被ばくによる抗酸化能の変化を解析し、放射線事故災害時のヒトにおける被ばく線量推定や健康被害の評価法として確立することを目指していた。
i-STrap法で血液中の脂質ラジカル消去能を測定
今回、研究グループは、抗酸化能の指標として、同グループが開発した独自技術であるi-STrap法により、血液中の脂質ラジカル消去能を測定した。i-STrap法は、全血の抗酸化能を100μLの血液で測定できる画期的な方法だ。
研究グループは、マウスに異なる線量(0.5、1、2、3Gy)の放射線を照射し、その直後から50日後まで、経時的に採血をしてi-STrap法により抗酸化能を測定。その結果、0.5Gyと1Gyでは照射2日後まで抗酸化能が下がり、1週間後まで低い状態が続いた後、24日目までには、ほとんど照射前の値まで戻った。2Gyと3Gyでは照射後7~10日をピークに抗酸化能が下がり、少なくとも24日目まで統計的に有意に低い状態が続いた。このことは、血中の抗酸化能を測定することで、事後に被ばく線量を推定できるということを示している。
研究グループは今後、マウスにおける抗酸化能が低下するメカニズムの解明、そして、ヒトにおける生活習慣、年齢、性別などの個人差による影響の調査を進め、さらに、より高感度・高精度・簡便・迅速な手法の開発を目指す予定。研究グループは、「放射線災害等におけるトリアージや健康被害の評価に貢献することが期待される」と述べている。
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