次世代センサー用電源として注目される薄型有機太陽電池
理化学研究所(理研)は9月27日、「超薄型有機太陽電池」で駆動し、心電波形を計測する「皮膚貼付け型心電計測デバイス」の開発に成功したと発表した。この研究は、理研創発物性科学研究センター創発ソフトシステム研究チームの福田憲二郎専任研究員、染谷隆夫チームリーダー(東京大学大学院工学系研究科教授)、創発機能高分子研究チームの伹馬敬介チームリーダーらの共同研究グループによるもの。研究成果は「Nature」に掲載されている。
画像はリリースより
伸縮性のある薄型有機太陽電池は、ウェアラブルなセンサーを長時間安定に駆動する電源としての応用が期待さ、近年では、皮膚や布地に密着させて、より高精度な生体信号を計測する次世代センサー用の電源として注目を集めている。これにより皮膚貼りつけ可能なセンサーが、バッテリー交換などの電源の問題から開放され、長時間安定的に生体情報をモニタし続けることができれば、健康管理を常時行う生体センシングが実現可能となる。
福田憲二郎専任研究員らはこれまでに、超薄型かつ高いエネルギー変換効率と耐水性、大気安定性、耐熱性を持つ「超薄型有機太陽電池」を報告してきた。しかし、皮膚に貼りつけが可能なほどの超薄型電源とセンサーとが集積化されたデバイスは、衣服や皮膚などの変形や光の入射角度変化の下では、太陽電池の出力が不安定になるため、これまで報告されていなかった。
フレキシブル有機太陽電池の世界最高効率を更新
研究グループは、フレキシブルな超薄型有機太陽電池の開発に取り組み、その結果、作製した太陽電池のエネルギー変換効率は、これまでのフレキシブル有機太陽電池の世界最高効率(10.0%)を更新し、10.5%を達成。また同時に、課題だった光入射角度依存性の低減にも成功した。
これは、ナノスケールの規則正しい線状の凹凸パターンである、「ナノグレーティング構造」を超薄型基板上に形成する技術を確立したことによるもの。厚さ1マイクロメートルの超薄型基板上の太陽電池の「電子注入層と半導体ポリマー層」の両方に、高さ数10ナノメートル、周期約700ナノメートルのナノパターンを形成。この周期的なナノグレーティング構造が、光の屈折率を調整して太陽電池表面での光の反射を低減させ、同時に薄膜内部での光散乱の増強と、金属電極での表面プラズモン共鳴効果を起こすことで、より効率的に入射光を発電に利用することが可能になったという。
また、この超薄型有機太陽電池を、共同研究グループで開発を進めている有機電気化学トランジスタを利用した皮膚貼付け型の超薄型センサーと集積化することで、心電波形を計測する「皮膚貼付け型心電計測デバイス」を作製。これを人体の皮膚に貼り付けたところ、外部電源なしに心電計測デバイスが駆動し、信号対雑音比(S/N比)25.9デシベル(dB)という高い精度での信号取得に成功した。
今回の研究により、電力の消費や人体への負荷を気にせずに、連続的に生体情報を取得するための要素技術が実現した。今後は、取得した生体情報を処理する回路や無線伝送システムと統合することにより、次世代の自立駆動型センサーシステムの基盤技術を提供するものと期待できる、と研究グループは述べている。
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・理化学研究所(理研) プレスリリース