国内患者数約4,000人と推測される「ウエスト症候群」
浜松医科大学は9月25日、小児期早期に発症する難治性乳幼児てんかんの責任遺伝子として「PHACTR1(ファクター・ワン)」を特定し、その遺伝子変異による病態メカニズムを解明したと発表した。この研究は、愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所の永田浩一副所長、日本学術振興会の浜田奈々子特別研究員、浜松医科大学医化学講座の中島光子准教授、才津浩智教授、横浜市立大学医学部の松本直通教授らを主体とする共同研究グループによるもの。研究成果は、脳医学研究雑誌「Brain」に掲載されている。
画像はリリースより
ウエスト症候群は、生後3~11か月時に発症する難治性乳幼児てんかんのひとつであり、日本国内では少なくとも約4,000人の患者がいると推測されている。難治性乳幼児てんかんは、遺伝的要因との関与が強く示唆されており、近年のゲノム解析技術の発展によって、次第に責任遺伝子が明らかになりつつあるが、てんかん発症の分子メカニズムはほとんど分かっておらず、原因の究明が求められている。
2名の患者でPHACTR1遺伝子のde novo変異を同定
今回の研究では、早期発症型てんかんの責任遺伝子を探るため、700例の小児てんかん患者に対して全エクソーム解析を施行し疾患責任遺伝子の検索を実施。その結果、2名のウエスト症候群患者においてPHACTR1遺伝子のde novo変異が同定された。PHACTR1遺伝子はPHACTR1と呼ばれるタンパク質をコードしており、細胞内でアクチンと呼ばれる細胞骨格タンパク質などと結合することで、細胞の形態や機能を調節する役割をもつと考えられている。
アクチンタンパク質の働きが正しく制御されることは、脳神経系の発達や機能に非常に重要であり、PHACTR1遺伝子の変異によってアクチンタンパク質の制御に障害をきたすことが予想された。そこで、次にPHACTR1タンパク質の機能を抑制したマウスを作成し、PHACTR1の遺伝子変異が脳神経の機能にどのような影響を与えるのかを検討。その結果、PHACTR1タンパク質がアクチンと結合し、その機能を調節することが発達期の神経細胞の形態・移動やシナプス形成に重要であり、PHACTR1遺伝子の変異によってこの機能調節に異常が生じると、神経細胞の形態・移動やシナプス形成・機能に障害が起こり、てんかん発作や知的障害の原因となる可能性が示された。
この研究成果は、ウエスト症候群を含む難治性乳幼児てんかんの原因究明に資するものであり、「アクチン細胞骨格の正常化」を標的にした新たなてんかん治療法開発の可能性を提起するものだ、と研究グループは述べている。
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・浜松医科大学 報道発表