10~20代のアルコール過剰摂取、世界で年間33万人が死亡
筑波大学は8月29日、大学生を対象とした飲食店における飲み放題に関する横断的調査の結果を発表した。この研究は、同大学医学医療系の吉本尚准教授、同大学大学院人間総合科学研究科ヒューマン・ケア科学専攻の川井田恭子博士課程学生らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Tohoku Journal of Experimental Medicine」のオンライン版で公開された。
画像はリリースより
アルコール過剰摂取は世界的な問題とされており、世界保健機構(WHO)は2009年に、「flat rate for unlimited drinking(一定料金での無制限飲酒)」のサービスが過剰摂取を招くとして、サービス提供の禁止・制限を提言。イギリスでは実際に、飲み放題サービスの提供に罰則が設けられた。日本でも2013年に「アルコール健康障害対策基本法」が策定され、国の方針である「アルコール健康障害対策推進基本計画」が2016年に策定されているが、アルコール飲料の購入が24時間可能であったり、多くの飲食店で飲み放題サービスが提供されていたりするなど、未だにアルコールに対して寛容な環境がある。
大学生を含めた10~20代の若年者におけるアルコール過剰摂取を原因とする死亡は、世界で年間33万人に達しており、日本においても大学生のアルコール過剰摂取への対策は切実な問題だ。しかし、アルコール過剰摂取につながる可能性の高い飲み放題が大学生の飲酒に与える影響に関する調査は、これまでほとんど行われていなかったことから、研究グループは飲み放題と大学生の飲酒量との関連を調査した。
男子学生の4割、女子学生の3割が一時的多量飲酒に
研究グループは、関東の31大学35学部の学生533人を対象に、飲食店における飲み放題に関する横断的調査を実施。飲み放題を利用したことがあると回答した学生511名(95.8%)を分析対象として、飲み放題の利用と大学生の飲酒量の差異を調べた。
その結果、飲酒量は、飲み放題ではない場合に比べて、飲み放題では、男子学生1.8倍(48.2±29.5gに対する85.9±49.7g)、女子学生1.7倍(36.5±26.7gに対する63.7±39.3g)に増加していることが判明。また、男子学生の39.8%、女子学生の30.3%が、飲み放題の場合にのみ、一時的多量飲酒(HED)という危険な飲酒をしていることが明らかになったという。
海外の研究からも、「all-you-can-drink(飲み放題)」が短時間での多量飲酒(ビンジ飲酒)のリスクを2.44倍高めたり、アルコール血中濃度と強く関連していることが判明している。また日本人の4~5割はアルコールが飲めない、またはとても弱い体質であることから、学生が飲み放題利用時に通常より2倍近いアルコールを摂取している可能性があることは極めて危険であると考えられるとしている。
今後、今回の研究で得られた結果を一般化するために、全国の大学生における同様の横断研究、飲み放題ではなぜ飲酒量が増えるのかという要因に関する質的・量的調査を展開していく必要がある。研究グループは「飲み放題の利用が自分たちの飲酒量に与える影響を知り、サービスを提供する側もそのあり方について議論していく必要がある」と述べている。
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