ヒトにとって必要不可欠な栄養素である鉄
兵庫県立大学は8月20日、ヒトの鉄吸収メカニズムに関わる膜タンパク質の立体構造を世界で初めて解明したと発表した。この研究は、同大大学院生命理学研究科の澤井仁美助教と理化学研究所放射光科学研究センターの杉本宏専任研究員を中心とした共同研究グループによるもの。研究成果は「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトにとって鉄は必要不可欠な栄養素であり、食物に含まれる鉄イオンを十二指腸で吸収し、酸素の運搬貯蔵・呼吸によるエネルギー獲得・遺伝子の合成・毒素の分解などの重要な生理機能に用いている。ヒトの体内には約5gの鉄イオンが存在し、毎日そのうちの1~2mgが、排泄・皮膚の剥離・脱毛などにより失われるが、日々の食事から補うことで、私たちは体内の鉄イオン濃度を一定に保っている。
しかし、十分に食事をとることができない、あるいは食物中の鉄分が不足していた場合は体内の鉄イオンが少なくなり、鉄欠乏性貧血に陥る。鉄欠乏性貧血は、世界人口の約30%以上にみられる深刻な栄養問題で、その予防や治療のためには、食物に含まれる鉄イオンを効率よく吸収する方法を見出すための情報が必要となる。
ビタミンCや有機酸が鉄分の吸収効率を向上させる仕組みも
食物に含まれる鉄イオンのほとんどがFe3+の状態で存在しているが、DMT-1がFe2+しか輸送できないため、「Dcytb」がFe3+をFe2+に変換する重要な役割を担っている。研究グループは、この鉄イオンの吸収に重要な鉄還元酵素の鉄還元メカニズムを解明するために、高純度なヒト由来Dcytbを調製し、脂質キュービック相法により脂質環境中でDcytbの結晶を作製。その結晶に大型放射光施設「SPring-8」の理研マイクロフォーカスビームラインBL32XUの高輝度なX線ビームを照射して測定したデータを解析することにより、世界で初めてヒト由来Dcytbの立体構造を解明した。さらに、その立体構造に基づく機能解析により、食物に含まれるビタミンCや有機酸が鉄分の吸収効率を向上させる仕組みを原子レベルで明らかにしたという。
鉄欠乏性貧血は、発展途上国における食料不足を原因とするだけでなく、先進国においても過度の減量などにより発症頻度が高く、世界的な栄養問題として早急な予防対策が望まれている。今回の研究でビタミンCやクエン酸などが鉄イオンの吸収に必須の反応を促進する仕組みを原子レベルで解明したことは、鉄分の効率的な摂取方法や鉄代謝異常による疾病への理解につながり、鉄欠乏性貧血の予防や治療の端緒を拓くと考えていると研究グループは述べている。
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・兵庫県立大学 プレスリリース