根本的な治療薬がないパーキンソン病
東京大学は8月17日、悪性黒色腫薬に対して承認されているdabrafenib(ダブラフェニブ)が、パーキンソン病の進行を抑制する可能性があることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科神経内科学の戸田達史教授と、神戸大学大学院医学研究科神経内科学の上中健医師らによるもの。研究成果は、「Human Molecular Genetics」に掲載された。
画像はリリースより
パーキンソン病は、脳のドパミン神経細胞が減少するために、手足の震えや歩行障害などの運動症状を呈する神経難病。65歳以上の1~2%に発症するとされ、症状を緩和する対症療法薬は複数存在するものの、病気の進行を抑制する根本的な治療薬はまだ見つかっていない。パーキンソン病の大部分は孤発性の発症形式をとり、神戸大も含めた複数の施設でゲノムワイド関連解析(GWAS)により発症に関連する遺伝子が同定されてきたが、このような知見をどのように疾患の治療につなげるかという課題があった。
パーキンソン病患者への適切な投与量などを検討予定
研究グループは、2014年に現大阪大学遺伝統計学の岡田随象教授らが関節リウマチにおいて開発した薬剤スクリーニングの手法に着目。これは、GWASの結果と、薬剤データベースやタンパク質間相互作用のデータベースを活用し、drug repurposingを含めた新規治療薬の同定を行う方法となる。孤発性パーキンソン病において同様の解析を行い、57種類の他疾患で承認されている薬剤をパーキンソン病の治療薬候補として同定した。
同定された候補薬剤の効果を、培養細胞やマウスに神経毒を投与したパーキンソン病モデルで検証。その結果、悪性黒色腫治療薬ダブラフェニブが、神経毒により誘導される細胞死を抑制することが明らかになったという。
ダブラフェニブは、すでに悪性黒色腫の適応で承認されているため、ヒトにおける投与量・副作用について一定のデータが存在することから、臨床応用までのコスト・期間がより少なく済む。研究グループは今後、パーキンソン病患者を対象に最も適切な投与量・投与方法などを検討する研究をすすめていく予定だという。
また、今回用いた薬剤スクリーニングの手法は、アルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症などの他の神経変性疾患のみならず、糖尿病や高血圧症といった遺伝的要因の関与が考えられるさまざまな疾患で有用な可能性があり、研究発展が期待されるとしている。
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