がん細胞と脂肪細胞で大きく発現誘導を受けるDPYSL4
千葉大学は7月26日、がんの抑制に重要な因子としてミトコンドリア超複合体に会合するDPYSL4を見出し、その作用メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の永野秀和特任助教、田中知明教授らのグループ(分子病態解析学)が、東京都健康長寿医療センターの井上聡研究部長と行った共同研究に加え、いすみ医療センターとの新たな枠組による寄附講座(次世代型健康長寿ホルモンアカデミー)の協力で実施したもの。研究成果は、米科学誌「Proceeding of the National Academy of Sciences」に掲載された。
画像はリリースより
日本人の糖尿病の死因の第1位は長年、心血管疾患だったが、現在は悪性疾患に移り変わりつつある。肥満や糖尿病では、大腸がん・腎臓がん・肝臓がんなどのリスクが高まることが明らかにされており、そのメカニズムの解明が望まれている。
ヒトのがんの多くで変異を認めるがん抑制遺伝子p53は、さまざまな抗酸化物質、アポトーシス誘導分子、細胞増殖の阻害因子など転写活性化することで、がん抑制作用を発揮する。近年では、がん研究を越えて、肥満や動脈硬化など生活習慣病にも関わることが示されているが、その分子メカニズムは十分に明らかにされていなかった。
また、多くのがんや代謝疾患では解糖系、グルタミン代謝、脂質合成系の亢進が認められ、がんの病態や悪性度に深く関わることから、腫瘍発生と脂肪生成には共通の分子機構が存在すると考えられているが、その詳細はわかっていない。ミトコンドリアは、TCAサイクルに重要な分子であるピルビン酸、グルタミン酸、アセチルCoAなどを供給し、さらに内膜に存在する5つの呼吸鎖複合体の働きによってATPを産生する重要な細胞小器官。研究グループは、がん細胞と肥満病態の形成に重要な脂肪細胞の両者で大きく発現誘導を受けるDPYSL4に注目した。
DPYSL4はがん組織や肥満の脂肪組織にも発現
今回、研究グループがゲノムワイドの解析から同定したDPYSL4は、p53によって誘導を受け、がん細胞と脂肪細胞に共通して認められ、がん組織や肥満の脂肪組織にも発現していることが判明。さらに、ミトコンドリアの呼吸鎖超複合体に働きかけ、細胞のエネルギー・代謝調節作用を発揮することで、がん抑制や生活習慣病に関わることを明らかにしたという。
これらの研究結果から、DPYSL4はミトコンドリア超複合体に会合することでミトコンドリア機能を制御し、がんの抑制に働くことが明らかになった。がん抑制機構やがん組織における病態形成と肥満における病態形成および両者を結びつけるDPYSL4の役割を解明することは、生活習慣病におけるがん発症の新たな予防、病態マーカー、治療に結びつく可能性が期待できる、と研究グループは述べている。
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