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免疫抵抗性難治がんに対するIL-12搭載ナノマシンの安全性と有効性を確認-東大ほか

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2023年02月10日 AM11:27

IL-12の安全性と腫瘍選択性を高める方法は不明だった

東京大学は2月9日、独自開発したIL-12搭載ナノマシン()の、免疫抵抗性難治がんに対する安全性と有効性を確認したと発表した。この研究は、同大大学院工学系研究科のオラシオ・カブラル准教授((iCONM)客員研究員)のグループ、東京大学病院の垣見和宏特任教授(免疫細胞学)、iCONMらの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Advanced Science」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

多くの固形がんは、免疫抵抗性の微小環境を持ち、免疫細胞の浸潤、活性化、エフェクター機能が阻害されるため、抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体を含む免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による免疫療法に反応しないCold Tumorと呼ばれる状態にある。

IL-12は最も強い炎症性サイトカインの一つ。そのため腫瘍組織に炎症を起こさせ、免疫療法の奏効率を高めるために使用できないかと大きな関心が持たれている。しかし、IL-12は全身性の免疫活性化により極めて毒性が強く、最大耐量(MTD)であっても臨床効果は極めて限定的であることがわかっている。IL-12の安全性と腫瘍選択性を高めるため、さまざまな研究機関でIL-12タンパク質をデザインする試みに大きな努力が払われているが、依然として良好な結果は得られておらず、問題の克服には至っていない。また、このようなタンパク工学システムにおける炎症動態はまだ十分に理解されておらず、反作用的な副次反応についても不明なままだ。

健康な臓器と腫瘍のpH差を感知、IL-12の生理活性を安定的に制御

研究グループは、IL-12の免疫活性化機能を腫瘍内部の部位における酸性度に基づいて制御することで、腫瘍を標的とした免疫強化が可能なIL-12搭載ナノマシン(ナノサイトカイン)を開発した。これはpH感応性高分子材料をベースに、腫瘍内の部位で異なるpHに応じて内含するサイトカインを放出することができるため、IL-12により引き起こされる全身性の副作用を回避することが可能だという。

実際にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)モデルマウスでは、ナノサイトカインが免疫力を高め、腫瘍への免疫細胞の浸潤レベルを上昇させることが確認された。また、ICIとの相乗効果により、原発性および転移性腫瘍の両方において完全奏効(CR)を実現したとしている。

IL-12の免疫反応を時空間的に制御、抗腫瘍効果を低下させず反復投与する際に有利

これらのことから、ナノサイトカインは腫瘍組織への高い集積性、選択的な腫瘍内免疫活性、制御された全身性免疫との相互作用により、炎症の時空間的制御を可能にし、上述の問題を一度に解決できることが明らかになった。

例えば、IL-12単体や標準的なIL-12製剤(融合タンパク質やイムノサイトカインなど)で、2回目の注入後によく見られる炎症抑制性のインターロイキン-10(IL-10)の発現も制御できる。このような時空間制御は、抗腫瘍効果を低下させることなく反復投与スケジュールを実現する上で有利に働くと考えられる。また、炎症を起こさせる部位を限定できることで、IL-12の有効治療域を拡大することが可能となった。

安全性の高さ、免疫チェックポイント阻害剤との強い相乗効果も確認

さらに、ナノサイトカインは逆作用する免疫反応をブロックすることで、免疫抑制性のトリプルネガティブ乳がんに対する有効投与量を10分の1に減少。ヒト試験で報告されているネイティブIL-12のMTDの1,000倍の用量でも毒性は確認されず、安全性も向上した。

加えて、免疫抑制性腫瘍に強い炎症を起こさせ、有効性を阻害する逆反応の回避も実現した。これにより、同製剤は免疫抑制性腫瘍の微小環境を逆転させることにより、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との強い相乗効果を示すに至ったとしている。

FDA認可の材料に基づいており、他の治療用タンパク質製剤にも応用可能

今回の研究成果により、ナノサイトカインが時空間的にサイトカインの放出を制御するIL-12送達システムであることが実証された。

「注目すべきは、同製剤が生体適合性のあるFDA認可の材料に基づいているため、臨床への応用にも適用しやすい点にある。さらに、他の治療用タンパク質製剤にも応用可能な技術であり、腫瘍をターゲットとした生物製剤送達に向けた実用的な戦略として機能すると考えている」と、研究グループは述べている。

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