新型コロナなどがエアゾル化して混入可能性のあるガス、感染リスクに
大阪大学は10月14日、これまで消化器内視鏡(胃カメラ)の「鉗子栓」から漏れ出ていたガスをシャットアウトする、新しい鉗子栓の開発に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科次世代内視鏡治療学の中島清一特任教授と大阪府済生会富田林病院の石田智医師ら、株式会社トップの研究グループによるもの。研究成果の一部は、2021年5月の米国消化器病週間(Digestive Disease Week)で発表された。
画像はリリースより
消化器内視鏡(胃カメラ)では、観察や処置のために胃や腸にガスを送り込むため、新型コロナウイルスを含む各種病原体がエアゾル化して混入している可能性のあるガスが多量に漏れた場合、感染リスクとなる。これまで、胃カメラを挿入する患者の「口まわり」から漏れ出るガスの対策は種々なされてきたが、胃カメラそのものである「鉗子栓」からのガス漏れはきちんと認識されておらず、具体的な対策はなされてこなかった。ガス漏れは視覚化が非常に難しいため、定性的、定量的な評価がなされていなかった。
ガス漏れのない、新規二重弁構造を有する改良型鉗子栓
今回、研究グループは、「シュリーレン光学機器」という特殊な計測装置を用いて、内視鏡の鉗子口周囲を観察。その結果、臨床現場で広く使われてきた従来型鉗子栓では、処置具を抜き差しする際に多量のガスが漏れ出ることを世界で初めて視覚化した。
そこで、トップ(東京)との産学連携を通じて、従来型鉗子栓の内部構造を一から見直し、複数の改良型鉗子栓を試作した。シュリーレン機器を用いて漏れ具合の定性的、定量的評価を繰り返した結果、最終的にガス漏れのない、新しい二重弁構造を有する改良型鉗子栓を完成させた。
同研究グループは、慶應義塾大学消化器内科の加藤元彦専任講師の研究グループとも連携し、鉗子栓内部の弁機能を強化する際に、肝心の操作性(処置具の挿抜性)に支障を来していないことを繰り返し確認しながら慎重に開発を進めてきた。この改良型鉗子栓により、処置具の抜き差しに際してのガス漏れをシャットアウトできることから、内視鏡診断、処置の安全性を飛躍的に向上させることができるものと期待される。
リークレスバルブ、製造承認取得後トップより市販予定
今回の研究成果により、新型コロナウイルスのように飛沫、エアゾルを媒介とする様々な既知感染症、未知の感染症への対策が強化され、内視鏡診断・治療の安全性が飛躍的に向上するものと期待される、と研究グループは述べている。
なお、同研究の成果物「リークレスバルブ(R)」は、薬機法による製造承認取得を得て、近日中にトップより市販される予定となっているとしている。