ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー6型コラーゲンタンパク質の有無がに与える影響は?
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は8月24日、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)のモデルマウスに、細胞移植により6型コラーゲンタンパク質を補うことで、筋肉をより太く成熟させることに成功したと発表した。この研究は、CiRA臨床応用研究部門の竹中菜々研究員、同部門の櫻井英俊准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Stem Cell Research & Therapy」に掲載されている。
画像はリリースより
UCMDは生まれたときから筋力が低下して徐々に筋萎縮が進行していく疾患で、現在のところ効果的な治療法は見つかっていない。また、UCMD患者では、筋線維を組織と結合するために重要な働きをする6型コラーゲンタンパク質が、全身の骨格筋を含むさまざまな組織で作られないことがわかっている。
これまでに、間葉系間質細胞(MSC: Mesenchymal stromal cells)から分泌される6型コラーゲンタンパク質や他の細胞外マトリックスなどの因子が、骨格筋の分化や再生・維持に重要な働きをしていることがわかっていたが、それがMSCの移植による効果なのか、6型コラーゲンタンパク質の補充による効果なのかについては不明だった。
細胞移植で6型コラーゲンタンパク質を補うと、モデルマウスの筋肉が再生・成熟
研究グループはまず、6型コラーゲン遺伝子を持たないUCMDのモデルマウス(Col6a1KO)の後肢の筋肉に、健康な人の骨格筋組織から分離したMSC(pMSC)、健康な人のiPS細胞から作製したMSC(iMSC)、6型コラーゲン遺伝子をノックアウトしたiMSC(KO-iMSC)を、それぞれ移植した。細胞移植2週間後および12週間後に、移植した部分を蛍光染色し顕微鏡で観察したところ、6型コラーゲン遺伝子をもつpMSCおよびiMSCの移植2週間後で6型コラーゲンタンパク質が検出された。さらに12週間後でも、6型コラーゲンタンパク質は維持されていたという。これらの結果から、移植した細胞で6型コラーゲンタンパク質が発現されていることが明らかになった。
同様に、Col6a1KOの後肢の筋肉に、pMSC、iMSC、KO-iMSCを移植し、1週間後に移植した部位を染色し顕微鏡で観察した。もとのモデルマウス(Col6a1KO)ではeMHC陽性の再生筋線維は極小径の細いものに限られており、筋線維の成熟が不十分な状態でとどまっていたが、6型コラーゲンをもつpMSCやiMSCを移植すると、eMHC陽性の細胞数が増えており、かつ、それらがより太く成熟している様子が見られたという。また、pMSCやiMSCでは、一つの筋線維の中に核が複数みられるものも多数あり、このことからも、筋線維の成熟が促進されていることが明らかになった。
さらに、再生した筋線維1本あたりの横断面積を計算したところ、pMSCやiMSCを移植したマウスでは移植しなかった場合と比べ、3倍程度太くなっていたという。
6型コラーゲンタンパク質を補う細胞移植療法がUCMDの新規治療法となる可能性
今回の研究で、UCMDのモデルマウスにpMSCやiMSCを移植することで、6型コラーゲンタンパク質が補われ、筋肉の再生や成熟を起こすことに成功した。これにより、UCMDの治療戦略の一つとして、6型コラーゲンタンパク質を補う細胞移植療法の可能性が高まったと言える。
また、iPS細胞由来のiMSCにより、6型コラーゲンを補うことが可能であることが示された。現在、京都大学iPS細胞研究財団にて準備が進められているゲノム編集したiPS細胞ストックからiMSCを作ることで、多くの患者に利用可能な細胞移植療法につながると期待される。
「再生した筋肉がどの程度機能するのかはさらなる検証を行う必要がある。今回の成果では細胞移植部位でのみ筋肉の再生がみられたが、実際の治療法とするためには広範囲の筋肉で同様の筋再生を促す方法の開発が求められる」と、研究グループは述べている。
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