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特発性肺線維症、病態発症メカニズムの一端を明らかに-名大

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2021年07月20日 AM11:45

肺線維症、標的タンパク質群の同定解析手法を開発

名古屋大学は7月16日、肺線維症の発症原因の一つタンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼにより架橋修飾される標的タンパク質群の同定解析手法を開発し、)の病態発症メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院創薬科学研究科の辰川英樹助教、竹内大修大学院生、人見清隆教授ら、同大トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の桑田啓子センターチーフらの研究グループによるもの。研究成果は、「American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

IPFは、肺に線維性タンパク質が過剰に蓄積して病態が進行する国指定の難治性疾患。IPFの患者数は日本では約1万数千人と推測され、自覚症状が認められてからの生存期間は、一般的に3~5年と予後が大変悪いとされている。現時点で、疾患を直接抑制する有効な治療法は確立されておらず、疾患増悪に関わる詳細な分子病態メカニズムの解明が求められている。

IPFの解析研究には、「ブレオマイシン」を投与した肺線維化マウスモデルが用いられる。今回の研究では、同マウスモデルにおいて、疾患発症の原因となる「タンパク質架橋酵素トランスグルタミナーゼ2(TG2)」に着目。病態形成時にTG2が活性化する領域で架橋修飾される標的基質タンパク質を同定する実験手法を開発した。

架橋修飾反応を起点として誘導するシグナル伝達経路、IPF病態発症メカニズムに関連

TG2は、タンパク質のグルタミン残基とリジン残基の間に不可逆的な架橋結合を形成する酵素。肺が線維化した領域ではTG2の活性増加(蛍光標識一級アミンの架橋修飾の増加)が顕著に観察された。内在性TG2により、肺組織切片中のグルタミン残基を持つタンパク質に一級アミンが架橋修飾され、これを指標としてTG2活性を調べることができる。

研究グループは、このような一級アミンと架橋した組織中のグルタミン残基を持つタンパク質を調べることにより、線維化領域でTG2によって架橋される基質タンパク質を同定できるのではないかと考え、実験系の構築を行った。

架橋タンパク質の同定手法を用いて、線維化肺で顕著に架橋修飾されるタンパク質群を調査。その結果、病態増悪に伴い架橋される126種類の基質タンパク質を見出した。同定されたタンパク質群はファゴソーム、脂質代謝、免疫応答、小胞体のタンパク質のプロセシングなどを含む21種類のシグナル伝達経路に関わることが判明。さらに、タンパク質相互作用解析により、小胞体ストレスやペルオキシソーム増殖因子活性化受容体シグナルに関連する6つのクラスターとシグナル伝達経路において、中心性が高い上位20個のハブタンパク質を抽出した。

これらの同定因子やパスウェイの一部は、IPF患者の遺伝子発現解析の結果と類似しており、架橋修飾反応を起点として誘導するシグナル伝達経路が、IPFの病態発症メカニズムに関わることがわかったという。

IPF病態機構解明と新規治療標的を対象とする創薬シーズの開発に期待

特定の基質タンパク質の架橋修飾と病態形成の関係性が今後解明されることにより、IPFの病態機構解明と新たな治療標的を対象とする創薬シーズの開発につながることが期待される、と研究グループは述べている。

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