どの遺伝子が自閉症様行動に対して重要?
神戸大学は7月6日、染色体異常のコピー数多型を有する自閉症モデルマウスの主たる原因遺伝子(Necdin、NDN)を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科生理学分野の内匠透教授(理化学研究所生命機能科学研究センター客員主管研究員)、玉田紘太助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
自閉症(自閉スペクトラム症)は、患者数が急増しているにもかかわらず、未解明な部分の多い発達障害。その原因は、遺伝的要因と環境的要因に分けられる。遺伝的要因の中で、特定のコピー数多型、例えば染色体15q11-q13領域の重複などが自閉症患者で見られることが知られている。15q11-q13領域では、母性由来染色体が重複しているケースと父性由来染色体が重複しているケースに分けられる。母性由来染色体の重複はUbe3a遺伝子が重要であることがわかっている一方で、父性由来染色体の重複はどの遺伝子が重要であるかはわかっていなかった。
研究グループは先行研究で、15q11-13領域の重複をマウスでモデル化(以下、15q dupマウス)することに成功。自閉症様の行動学的異常、幼少期における樹状突起スパインの動態異常などの数々の異常が父性由来染色体重複に見られることを見出してきた。しかし、同領域には多数のnon coding RNAや、タンパク質をコードする遺伝子が含まれるため、どの遺伝子が自閉症様行動に対して重要であるかはわかっていなかった。
Ndn遺伝子、幼少期のスパイン形成と成熟度を調節
15q dupマウスは、6Mbにも及ぶ領域が重複していることから、非常に多数の遺伝子を含んでいる。前研究により、母性由来染色体の重複が行動学的異常を誘発しないことがわかっていたことから、2Mb近くが対象から除外された。残りの4Mbについて、今回の研究ではまず1.5Mbの重複マウスを新たに作製し、その行動学的異常を調べた。その結果、1.5Mbの重複マウスでは自閉症様の行動学的異常は認められなかった。このことから、対象となった1.5Mbは除外され、残りはタンパク質をコードする3遺伝子となった。
これら3遺伝子を子宮内電気穿孔法で大脳皮質に導入し、幼少期におけるスパインの動態(2日間における数の増減)を二光子顕微鏡で調べたところ、Ndn遺伝子を導入した際に顕著にスパインの数が増加することが判明。また、このスパインの形態的分類を行うと、未成熟なスパインがほとんどであったことから、Ndn遺伝子は幼少期におけるスパインの形成と成熟度の調節を行っていることがわかった。
15q dupΔzNdnマウス、社会性、固執性の行動学的異常を改善
次に、15q dupマウスからNdn遺伝子のゲノムコピー数を正常化したマウス(15q dupΔzNdnマウス)をCRISPR-Cas9法で作製。これまでに、15q dupマウスで認められたスパインの動態異常や抑制性シナプスの減少などが改善されたことを示した。
最後に、元々の15q dupマウスで認められた、新奇環境下における不安度の上昇、社会性の低下、固執性の上昇などが15q dupΔNdnマウスにおいて認められるかを調査。その結果、ほとんどの行動試験の結果で、社会性、固執性の行動学的異常が改善されたことを示したとしている。
自閉症など発達障害発症メカニズム解明、新規治療開発に期待
今回の研究により、NDN遺伝子が15q dup自閉症モデルマウスにおいて、自閉症様行動だけでなく、シナプス動態や大脳皮質における興奮性/抑制性のバランスなどにも重要であることが明らかとなった。
今後NDN遺伝子の機能を明らかにし、その機能を人為的に制御、あるいは下流因子を同定・制御することで、将来的に自閉症をはじめとする発達障害発症メカニズムの解明や、新たな治療戦略を作り出すことが期待される、と研究グループは述べている。
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