脳腫瘍の生存率を上げるために、早期発見が課題
名古屋大学は4月2日、尿中に含まれるマイクロ RNAを測定することで99%の正確度で脳腫瘍が診断できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究脳神経外科学の夏目敦至准教授、北野詳太郎客員研究員、青木恒介特任助教、同大大学院工学研究科生命分子工学専攻の安井隆雄准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「ACS Applied Materials & Interfaces」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
がんの早期発見は、近年のがんの生存率の上昇の1つの要因とされている。しかし、脳腫瘍の生存率はここ20年でほぼ変化がなく、これは他のがんに比べ、脳腫瘍が発見される時期が遅いことが原因の1つと考えられる。一般的に、手足が動かない、言葉が話せないといった神経症状が出現して初めてCTやMRI 検査を受け、脳腫瘍が発見される患者が多く、その場合はすでにかなりの大きさに進行しているため、手術で完全に取り除くことがしばしば困難だ。腫瘍が小さいうちに発見し、治療を開始することが重要と考えられる。
研究グループは、生体の機能を調整する核酸であるマイクロRNAを脳腫瘍診断のバイオマーカー候補と考えた。マイクロRNAは細胞外小胞体の中に含まれており、多くの細胞外小胞体は血液だけでなく尿中でも壊れずに安定して存在している。尿は誰でもいつでも簡単に、体に負担をかけることなく採取ができる利点がある一方で、超遠心法等の従来の方法では尿から多くの種類のマイクロRNAを集めることができなかった。そこで研究グループは、尿中の細胞外小胞体が効率良く集められるナノサイズの酸化亜鉛ナノワイヤ装置を開発し、尿による早期の脳腫瘍診断方法の確立を目指した。
尿中マイクロRNAを大量収集できるナノワイヤ装置を開発
今回、開発したのは、ナノワイヤを約1億本搭載した大量生産可能な装置。このナノワイヤ装置は各部品を組み立てて作製するため、各々の部品を滅菌することが可能であり、医療用機器として使用できる可能性も秘めているという。この装置で尿中の細胞外小胞体を捕捉し、内部のマイクロRNAを抽出したところ、従来の超遠心法や商品化カラムの方法に比べ、明らかに多くの種類のマイクロRNAを高純度で抽出でき、また高い再現性を示した。
脳腫瘍由来マイクロRNAを尿で高頻度に同定
脳腫瘍由来のマイクロRNAが尿中に認められるかどうかを調べるため、脳腫瘍患者の腫瘍組織(オルガノイド)を培養し、ナノワイヤ装置を用いて脳腫瘍組織が分泌しているマイクロRNAを抽出した。これを用いてマイクロアレイ解析を行ったところ、健常人に比べて脳腫瘍患者の尿で発現変動を示していたマイクロRNAの73.4%は、その患者の脳腫瘍自体から分泌されたマイクロRNAであると判明。一方、脳腫瘍が分泌する特徴的なマイクロRNAは健常人の尿中にはほとんど含まれていないこともわかった。これらの結果から、脳腫瘍が分泌した特徴的なマイクロRNAを含む細胞外小胞体は、尿中に安定して存在していると考えられた。
尿を用いて脳腫瘍を診断、99%の正確度を確認
続いて、尿中のマイクロRNAの、脳腫瘍バイオマーカーとしての可能性を検討するため、68人の脳腫瘍患者と66人の健常人の尿からマイクロRNAを抽出し、マイクロRNAの発現比較を実施。その結果、脳腫瘍患者のマイクロRNAの組み合わせには特徴的な発現パターンがあることがわかり、別の34人の脳腫瘍患者と34人の健常人をそのパターンをもとに分類したところ、99%の正確度(感度:100%、特異度:97%)で脳腫瘍を診断できることを世界で初めて発見した。さらに、非常にまれな脳腫瘍に罹患している患者15人も、この方法で判定を行ったところ、15人全員が「脳腫瘍あり」と正しく判定された。
脳腫瘍だけでなく、多種類のがんの同時発見につながる可能性
今回、作成されたモデルで、脳腫瘍の悪性度や大きさを問わず、正確な診断が可能だったことから、尿中のマイクロRNAは今後、脳腫瘍のバイオマーカーとして実用化される可能性が示された。研究グループは、同様の方法を用いて、肺がん等の他のがんも尿で高精度に診断できる可能性が高いと考えており、それを達成することで、わずかな尿を使用し、脳腫瘍だけではなく、多種類のがんを同時に発見できる可能性があると述べている。
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