創薬標的として、保存性が高いCAタンパク質の配列に着目
東京医科歯科大学は2月3日、HIV-1カプシド(CA)タンパク質を標的とした新規低分子抗HIV活性化合物の創出に成功したと発表した。これは、同大生体材料工学研究所メディシナルケミストリー分野 玉村啓和教授の研究グループと、国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターの佐藤裕徳主任研究官のグループ、同研究所エイズ研究センターの村上努主任研究官のグループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Biomolecules」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
HIVが後天性免疫不全症候群、エイズ(AIDS)を引き起こすことが報告されてから35年以上が経過した現在、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤等の酵素阻害剤を中心に多くの抗HIV剤が上市され、これらの併用療法がHIV感染症・エイズの治療を飛躍的に進歩させた。しかし、いずれの薬剤療法も変異ウイルス株の出現を抑えることはできず、体内からウイルスが完全に排除されるような根治には至らない。そのため、感染者は薬剤の変更に対応しながら一生薬を服用しなければならず、その身体的負担は計り知れない。
これらのことから、HIV感染症・エイズについては、これまでの薬とは異なる作用点をターゲットとした変異ウイルス株の出現が起こりにくい抗HIV剤の開発が待ち望まれている。このような背景において、世界の99.999%の流行株に変異が認められない、極めて保存性が高いCAタンパク質の配列は、魅力的な創薬標的であると考えられる。
カプシドをターゲットとするジペプチドミミックが、新規抗HIV剤となる可能性
HIVが持つカプシドはウイルスRNAを包み込む殻であり、多くのHIV株間で高く保存されている。この殻は、HIVタンパク質Gagより生成するCAタンパク質がたくさん集まることにより、円錐形の構造をとっている。カプシドの機能阻害はHIV複製を抑制する重要なターゲットであると期待され、カプシドの機能阻害につながる新規メカニズムを理解することは重要だ。しかし、現在までにカプシドをターゲットとする薬剤は上市されていない。CAタンパク質中のTrp184/Met185を介するCAタンパク質2分子間の疎水性相互作用がカプシドの多量体構造の安定化に重要であること、およびこの2個のアミノ酸を他のアミノ酸へ置換するとカプシドが形成できないことが最近報告された。
研究グループは今回、in silicoスクリーニングによって、相互作用領域のTrp184とMet185のジペプチドミミックをデザイン・合成し、マイクロモル濃度レベルで顕著な抗HIV活性を持つことを明らかにした。このジペプチドミミックは、CAタンパク質2分子間の疎水性相互作用を競合的に阻害すると考えられる。また、この誘導体を基にしたカプシドをターゲットとする変異ウイルス株の出現が起こりにくい新規抗HIV剤の創出に役立つ知見が得られた。
今回の研究で創出されたカプシドをターゲットとするジペプチドミミックは、根治を目指し、薬剤耐性変異ウイルス株の出現を抑制する新規抗HIV剤として、大いに期待される。「多くのウイルス株間で保存性の高い領域をターゲットとし、in silicoスクリーニングにより阻害剤をデザインすることが、変異種の出現が問題となるような抗ウイルス剤の創薬研究に役立つと考えられる」と、研究グループは述べている。
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