HIVの根治薬はいまだ開発されておらず、感染者の身体的負担は多大
東京医科歯科大学は1月25日、CD4ミミックと言われる低分子化合物をポリエチレングリコール(PEG)化することにより、抗ヒト免疫不全ウイルス(HIV)活性の向上、細胞毒性の軽減、サルの体内動態の改善に成功と発表した。これは、同大生体材料工学研究所メディシナルケミストリー分野の玉村啓和教授の研究グループと、熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターの松下修三教授グループ、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の三浦智行准教授グループ、国立感染症研究所エイズ研究センターの原田恵嘉主任研究官、東京都健康安全研究センターの吉村和久所長との共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Medicinal Chemistry」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
後天性免疫不全症候群、エイズ(AIDS)を引き起こすHIVの発見から35年以上が経過した現在、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤等の酵素阻害剤を中心に、多くの抗HIV剤が開発された。そして、これらの2、3剤の併用療法がHIV感染症・エイズの治療を飛躍的に進歩させた。しかし、いずれの抗ウイルス療法をもってしても、感染者の体内からHIVが完全に排除されるような根治には至らず、感染者は一生薬を飲み続ける必要があり、身体的負担は多大となる。そのため、他の作用点をターゲットとした治療法や、抗体などを利用した穏和な治療法の開発が待ち望まれている。このような背景において、HIVの細胞への侵入はウイルスの複製サイクルの最初のステップであり、魅力的な創薬標的であると考えられる。
ヒトの細胞表面タンパク質であるCD4は、HIVが細胞へ侵入するときに利用する受容体。研究グループはHIV侵入阻害剤の創製を精力的に進めており、その一環としてCD4のHIV外被タンパク質結合部位を模倣した低分子化合物であるCD4ミミックを創出している。これまでのCD4ミミックの最適化研究で抗HIV活性の向上がある程度達成されているが、霊長類マカクサルモデルでの血中半減期が短いという体内動態に課題があった。
PEG化CD4ミミックを「抗エイズ薬」として応用できる可能性
今回の研究では、CD4ミミックをPEG化修飾した誘導体を合成し、さらなる抗HIV活性の向上(3倍以上向上、50%効果濃度(EC50)が0.1マイクロモル濃度以下)、細胞毒性の軽減(半分以下に低下、100マイクロモル濃度で細胞毒性が検出されない)に成功した。また、本PEG化CD4ミミックについて、体内動態が大幅に改善されること(静脈注射で半減期31分が107分に改善)、および投与法として静脈注射だけでなく筋肉注射が有用であること等の知見が得られたという。さらに、HIV感染症・エイズの根治を目指した研究のひとつとして、共同研究者である熊本大学松下修三教授らが開発したHIVの中和抗体を用いた抗体療法に関して、同PEG化CD4ミミックは、この中和抗体の効果を飛躍的に増強させたとしている。
研究グループが創出したPEG化CD4ミミックは、今回研究結果により、実際に抗エイズ薬として応用できる可能性が示された。「本PEG化CD4ミミックは抗体との併用という意味でも、根治を目指した副作用の少ない新規治療法として非常に期待が持てる」と、研究グループは述べている。
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