父親の年齢が子どもの発達障害に影響、その分子メカニズムは?
東北大学は1月6日、父親の加齢に伴う子どもの神経発達障害発症の分子病態基盤として、神経分化を制御するタンパク質であるREST/NRSFが関与し、加齢した父親の精子の非遺伝的要因が子どもに影響することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・発生発達神経科学分野の大隅典子教授らの研究グループが、同大加齢医学研究所医用細胞資源センターの松居靖久教授、東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科動物発生工学研究室の河野友宏教授、愛知県医療療育総合センター発達障害研究所障害モデル研究部の吉崎嘉一研究員と共同で行ったもの。研究成果は、「EMBO Reports」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
将来の健康や特定の疾患へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境に強く影響を受けると考えられている。これまでは、主に母体の栄養状態や薬物摂取等、母親側からの影響が注目されていたが、近年は、父親からの影響にも注目が集まりつつある。近年、ヒトを対象とした疫学調査により、子どもの自閉症スペクトラム障害等の精神発達障害のリスクに関して、母親よりも父親の加齢が大きく関わることが世界各国で報告されている。加齢に伴い精子におけるde novo突然変異の蓄積および遺伝子発現を制御するDNAメチル化の異常が示唆されているが、現在までに、その正確な分子メカニズムは不明だった。
加齢父マウスの仔、REST/NRSFを介した神経発生異常でDNA低メチル化の可能性
今回、研究グループは、父親の加齢が仔の神経発達障害様行動異常の原因となりうること、また、その原因となる分子基盤の一部を明らかにした。
まず、12か月齢以上(加齢)の父親マウスから生まれた仔マウスを調べたところ、母仔間の音声コミュニケーションである超音波発声の頻度低下や鳴き方の単調化といった神経発達障害様行動異常を示すことがわかった。次に、加齢マウスの精子を用いた全ゲノム網羅的メチル化解析を行った結果、96か所のDNA低メチル化領域を同定した。さらに、このDNAメチル化領域の配列を解析し、神経分化を制御することが知られるタンパク質REST/NRSFの結合配列が高頻度に存在することを発見。
そこで、神経発生が盛んになる胎生期の脳における網羅的遺伝子発現解析を実施した結果、加齢父マウス由来の胎仔脳では、自閉症関連遺伝子群の活性が強く、神経発生後期に発現すべき遺伝子群が前倒しで働いていることを発見した。興味深いことに、加齢父マウス由来の胎仔脳では、REST/NRSFの標的遺伝子が高発現していた。
若齢マウス精子にDNA低メチル化誘導で、仔は神経発達障害様に
さらに、精子のDNA低メチル化が仔マウスに影響する可能性について検証するために、薬剤投与により若齢父マウスにDNA低メチル化を誘導し、生まれた仔マウスを解析。その結果、超音波発声の頻度が低下し、鳴き方のパターンも単調化することが再現された。
以上より、父マウスの加齢による仔マウスの行動異常には精子のDNA低メチル化が関与しており、その分子メカニズムとして、REST/NRSFを介した神経発生異常による可能性が示唆された。研究グループは、「今後、加齢によるDNAの低メチル化やその次世代への影響を防ぐことにより、神経発達障害の予防や治療法の開発が進むことが期待される」と、述べている。
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